防災シンポジウムご報告
「複合災害における防災を考える~中越地震・中越沖地震・東日本大震災の経験を踏まえて~」
1 はじめに
新潟県弁護士会では、平成28年1月16日、新潟県民会館において、防災シンポジウム「複合災害における防災を考える~中越地震・中越沖地震・東日本大震災の経験を踏まえて~」を開催いたしました。
本シンポジウムは、東日本大震災から5年を迎える節目の年の初めに、災害時の備えについて、県民みんなで考える機会を作りたい-。そんな思いから、当会が、新潟県をはじめ県内の防災関係機関のご協力をいただいて、準備を進めてきました。
当会は、中越地震・中越沖地震の被災地としての経験もあり、東日本大震災発生直後から被災者支援を実施してきました。もっとも、当会としては、震災後の法律相談や賠償問題の支援など、災害が起こってしまった後の、復興に向けた活動が中心でした。ただ、そうした活動の中で、数多くの被災者の声を直に聞いたり、様々な関係機関との連携を深めたりすることができました。そのようにして弁護士会に蓄積した経験や人脈を、何らかの形で地域に還元したいとの声が会内で高まったことを受け、本シンポジウムの企画に至りました。
シンポジウム当日は、県内各地から、自治体や民間企業の防災担当の方をはじめ約150名もの方々に集まっていただき、各種報告を通じて、防災意識の向上や連携強化に向けた課題を共有することができました。
2 防災シンポジウムのご紹介
(1) 防災アンケート調査の検証
本シンポジウムに先立ち、県内の防災関係の企業・団体に対して、防災意識や災害時の準備状況に関するアンケートを実施したところ、約100ヵ所から回答をいただきました。当日は、佐藤慎之助会員が、当会が行ったアンケート結果の検証結果を踏まえ、今後に向けた県内の防災の課題について報告しました。
アンケートの検証によって、県内の防災関係機関が、避難計画の策定や備蓄、避難訓練など、一般災害時への備えについては力を入れて進めていることが分かりました。他方で、東日本大震災のように原発事故が併発してしまった場合については、想定していなかった団体が大半でした。東日本大震災の際には、情報入手の難しさによる避難の混乱や二次避難・長期避難が問題となりました。県内にも柏崎刈羽原発がありますので、原子力災害時の避難手段や避難方法についても、日頃から検討していただく必要性を感じました。
災害時の避難は、その災害の規模や被害状況、地形や道路などの地域の特徴、子どもや高齢者等誰と一緒に避難するかなど、場面によって対応が変わってきます。各家庭においても、日頃から、もしもの時を想定した話し合いをしておくことは、何より大切です。そして、防災関係機関が連携・情報共有を進め、地域の中でリーダーシップを発揮することで、より充実した備えが可能になります。
今回のアンケートで、原子力災害時の備えが不十分であることが浮き彫りになりました。万が一にも起こってほしくはありませんが、東日本大震災のような複合災害が発生してしまった場合をもしっかりと視野に入れ、県民が一丸となって、災害に強い地域作りを進めていくことを、会として提言いたしました。
(2) 福島第一原発事故における避難者の声
浪江町から避難された男性と郡山市から避難された女性から、事故当時の避難状況などについて、それぞれお話しいただきました。お二人からは、当時どのような状況で事故に遭ったのか、情報が全くない中で家族を守るために必死で避難した経緯、今も新潟での避難生活が長引いていることに対する複雑なお気持ちなどについて切実にお話いただき、大変胸を打つものでした。
(3) 新潟県知事のビデオインタビュー
続いて、県内の防災計画策定の責任者でもある泉田裕彦県知事から県内の防災対策の現状や取組についてお話しいただくビデオインタビュー番組を放映いたしました。放映時間は1時間程度でしたが、泉田知事が、防災政策について対外的に長時間お話しいただくという機会は大変珍しく、放映自体が非常に意義のあることでした。
泉田知事からは、災害時の指揮系統をはじめ、現状の組織や法制度が抱える課題について言及がありました。そして、災害時に自治体が担う役割について指摘した上で、東日本大震災を教訓として、災害や事故は起こるものだという前提で準備を進めなければならないことなどを強調されていました。
また、県民に対しては、いざ災害が起こってしまった時のために、ハザードマップを見て地域の特徴を踏まえた上で、どこにどう避難するのか、どのように連絡を取り合うのか、家族や近所の人と話し合っておいてほしいとのメッセージがありました。そして、自治体からの支援が届くまでの時間をしのぐために、3日分の水や食料の準備をお願いしたいともお話しされていました。
(4) 基調報告(新潟県弁護士会より)
当会からは、県内の防災計画及び避難計画策定上の法的課題について、報告を行いました。
まず、二宮淳吾会員が、新潟県における地域防災計画、とりわけ原子力災害編について、原発災害が起きることを想定して具体的に検討が進められていること、さらには不断の見直しがなされていることなどについて指摘し、避難計画を策定するにあたっての指揮命令系統に混乱が生じるのではないかという問題、さらには、複合災害時に復旧作業に当たる労働者を巡る法制度が未整備ではないかという問題について紹介しました。
また、猪俣啓介会員は、原発災害時において甲状腺被ばくを防ぐ効果がある安定ヨウ素剤に関して、福島第一原発事故当時、配布及び服用指示が遅れたために多くの住民が安定ヨウ素剤を服用できなかった問題のほか、新潟県内の配布状況及び今後の課題について紹介しました。
3 今後に向けて
本シンポジウムは、新潟県をはじめ県内の防災関係者皆様から多大なるご協力をいただき、多くの皆様との間で県内の防災の現状及び課題を共有するなど無事成功で終えることができました。
今後、当会としては、本シンポジウムをきっかけに、県内で原発災害を含む複合災害が発生した際にも迅速に対応できるよう、関係団体との連携をさらに深め、県内の適切な防災計画及び避難計画の策定及びその実効性の確保に引き続き尽力していく所存です。
以上
防災シンポジウムチラシ(PDF 約0.7MB)
基調報告(PDF 約1.8MB)
新潟県内の防災関係者に対するアンケート調査の検証(PDF 約3.5MB)