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お知らせ

袴田事件再審開始決定に対する検察官の即時抗告に抗議する会長声明

 1966年(昭和41年)6月、静岡県清水市(現静岡市清水区)の味噌製造会社専務宅で一家4名が殺害された強盗殺人・放火事件(いわゆる袴田事件)
の第二次再審請求審で、静岡地方裁判所は、2014年(平成26年)3月27日、再審を開始し、死刑及び拘置の執行を停止する決定をした。
 ところが、静岡地方検察庁の検察官は、同年3月31日、再審開始決定を不服として東京高等裁判所に即時抗告した。
 再審開始決定は、弁護人が提出したDNA鑑定関係の証拠について、確定判決が有罪認定の最有力証拠とした5点の衣類が、袴田氏のものでもなく、
犯行着衣でもなく、捜査機関によってねつ造されたものであったとの疑いを生じさせるものであると指摘し、「国家機関が無実の個人を陥れ、45年以上に
わたり身体を拘束し続けたことになり、刑事司法の理念からは到底耐え難いことといわなければならない」、「無罪の蓋然性が相当程度あることが明らかに
なった現在、これ以上、袴田(氏)に対する拘置を続けることは、耐え難いほど正義に反する状況にある」として、再審の開始のみならず、拘置の執行を
停止するという画期的判断を行った。
 これにより、袴田氏は1966年(昭和41年)8月の逮捕以来約47年ぶりに釈放されたが、半世紀近くにもわたり死刑執行の淵に立たされ続けてきた
その心情は想像を絶するものであり、筆舌に尽くし難い。
 わが国は、1980年代に免田事件、財田川事件、松山事件、島田事件といった死刑確定判決に対する再審無罪事件を経験した。このとき平野龍一博士は、
「わが国の刑事裁判はかなり絶望的である」と断じ、このような痛切な経験が今日の刑事司法改革につながっているはずであった。
 また、2009年(平成21年)から発生したいわゆる厚労省元局長無罪事件、同事件の主任検察官による証拠隠滅事件、その上司であった元大阪地検特捜部長
及び元同部副部長による犯人隠避事件を受けて当時の法務大臣が設置した「検察の在り方検討会議」では、検察官の基本的使命・役割として、「検察官は
『公益の代表者』として、有罪判決の獲得のみを目的とすることなく、公正な裁判の実現に努めなければならない」旨が提言された。さらには、同会議の提言を
受けて最高検察庁が策定した「検察の理念」においても、「刑罰権の適正な行使を実現するためには、・・・あくまで真実を希求し、知力を尽くして真相解明に
当たらなければならない。」とし、「無実の者を罰し、あるいは、真犯人を逃して処罰を免れさせることにならないよう、知力を尽くして、事案の真相に取り組(み)」
「被疑者・被告人等の主張に耳を傾け、積極・消極を問わず十分な証拠の収集・把握に努め、冷静かつ多角的にその評価を行う」という姿勢が求められたはずである。
 しかるに、今回の検察官の即時抗告は、検察が「公益の代表者」としての立場を依然として全く自覚していないことを如実に示すものである。
 今、袴田事件で、検察官がなすべきは、裁判を引き延ばすことではなく、再審公判で全ての証拠を開示して事件の真相を明らかにすることであり、それこそが
国民から付託された「公益の代表者」としての責務である。
 当会は、静岡地方検察庁の検察官が行った今回の即時抗告に強く抗議するとともに、検察官に対し、即時抗告を直ちに取り下げ、一刻も早い再審の審理開始に
協力するよう強く求めるものである。
 また、当会は、袴田氏が早期に無罪となることを強く願うとともに、このような悲劇が二度と繰り返されることのないよう、取調べ全過程の可視化や全面的証拠開示を
はじめとするえん罪防止のための制度改革の実現を目指して、今後も全力を尽くす決意である。

                                        2014年(平成26年)4月9日
                                           新潟県弁護士会
                                           会長 小泉 一樹  


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