労働者派遣法の一部改正案に反対する会長声明
第1 声明の趣旨
当会は,労働政策審議会の「労働者派遣事業の適正の確保及び労働者の保護に関する法律等の一部を改正する法律案要綱」答申に
従った労働者派遣法の改正に反対するとともに,同法について,常用代替防止を維持し,かつ派遣労働者の雇用の安定と適正な
労働条件を確保するための改正を検討することを求める。
第2 声明の理由
1 本年2月21日,労働政策審議会は厚生労働大臣に対して,「労働者派遣事業の適正の確保及び労働者の保護に関する法律等の
一部を改正する法律案要綱」(以下,「法律案要綱」という)を答申し,厚生労働省は、これを受けて法律案を作成する方針を固めた
とのことである。
法律案要綱は,労働者派遣法の根本原則である常用代替防止の考え方を見直すこととして,①派遣元で無期雇用されている派遣労働者
について,常用代替防止の対象から外し,派遣期間の制限を撤廃する,②派遣元で有期雇用されている派遣労働者について,派遣期間の
制限を従前の業務単位ではなく,個人単位で上限期間3年を設定する,③現在派遣期間の制限のない政令指定の専門26業務についても
上と同様の扱いとする,④派遣労働者個人単位で派遣期間の上限に達した派遣労働者の雇用安定措置を盛り込む,という内容である。
2 この内容には次のような重大な問題をはらんでいる。
上記①の点の派遣元で無期雇用されている派遣労働者については,契約期間の定めがないだけで必ずしも派遣労働者の雇用が安定している
わけでもなく,労働条件が優良であるわけでもない。
上記②の有期雇用の派遣労働者についても,結局のところ,派遣先・派遣元事業者が3年経過するごとに派遣労働者を入れ替えさえすれば,
その業務について永続的に派遣労働を使うことが可能となり,常用代替を防止できず派遣労働の固定化につながる。また,上記③の点は
従前専門職の派遣について期間制限をしなかったものを一般職と同様に扱うことにしたもので,専門職については不利益な改正となる。
そして,④の雇用安定措置は,派遣元が,派遣先への直接雇用の申入れ,新たな派遣就業先の提供,派遣元での無期雇用化等のいずれかの措置
を講じなければならないとするものであるが,これらは私法的な効力を付与しない限り,実効性を欠くものであり,また,派遣先での労働組合の
意見聴取の規定も,労働組合等が反対しても使用者は再度説明さえすれば導入できる制度となっており歯止めになり得ない。
3 そもそも,雇用は,労働者の雇用の安定と労働条件を確保するため,使用者責任を明確にした「直接雇用」が基本であって,これに反して
「中間搾取」を容認する労働者供給事業は,職業安定法により違法とされていたが,それを一定範囲で合法化するために労働者派遣法が1985年に
制定されたが,それは一時的な労働者の需要と供給のミスマッチを解消するためのもので,かつ当初は専門業務に限って例外的なものと認める扱い
としたものである。その後,二十数回にわたる改正によって原則としてすべての業務について労働者派遣制度が拡大,運用されてきている。派遣労働を
適正なものとするためには,EUで採られているような,派遣労働を臨時的・一時的な労働力と捉えること,常用労働者との均等待遇を確保する方策,
また派遣利用可能事由の制限などを必要とするが,派遣法はそうした措置をとっていない。
こうした規制緩和と2008年秋のリーマンショックのため「派遣切り」が社会問題化したことは記憶に新しく,その対策が求められるところであるが,
今般の改正はこれにまったく逆行している。現在,派遣労働者は,人数は90万人前後で,その収入は低額であって,また,派遣先の都合で簡単に
失職するという極めて劣悪な状態に置かれ,格差社会の象徴ともなっている。
4 上記の内容の労働者派遣法の改正がなされることになれば,派遣受け入れ期間の制限は事実上なくなり,「常用代替防止」が機能しなくなる。
すなわち,企業は派遣労働者を永続的にすべての業務について利用できることになり,その一方で,常用の労働者の代わりに,永続的に派遣で就労
せざるを得ない労働者を大量に生み出し,労働者全体の雇用の安定と労働条件が損なわれる事態となる。それは,多くの不安定雇用で低収入の労働者を
生み出し,現在の格差をさらに広げて固定化し,家庭を持ち子育てをすることさえできない若者をふやすこととなり,社会の安定を害し,また,内需拡大
による景気の回復にも逆行するものである。
よって,当会は,法律案要綱に従った労働者派遣法改正に反対するとともに,常用代替防止を維持し,かつ派遣労働者の雇用の安定と適正な労働条件を
確保するための労働者派遣法の改正について検討することを求めるものである。
2014年(平成26年)3月12日
新潟県弁護士会
会長 味 岡 申 宰