警戒区域等以外の避難者に対する高速道路の無料化措置を求める会長声明
第1 声明の趣旨
当会は国に対し、東京電力福島第一原子力発電所の事故(以下「原発事故」という。)を機縁として、それ以前において原発事故における
警戒区域等以外の地域を生活の本拠としていた者であって、その後従来の生活本拠地よりも汚染リスクが少ないと認められる地域へ
避難した者(いわゆる自主避難者。以下「区域外避難者」という。)及びその家族に対しても、高速道路の無料化措置を直ちに講じるよう強く求める。
第2 声明の理由
1 東北地方の高速道路の無料化措置は本年3月31日に終了し、4月1日からは、無料措置の対象者が、原発事故以前に警戒区域等を生活の
本拠としていた避難者に限定された。
2 しかし、今なお、多くの区域外避難者が、福島県外において避難生活を送っている。たとえば新潟県における10月26日現在の避難者の
受入数は6206人であるところ、区域外避難者は約半数の2996人にも及ぶ。
区域外避難者の多くは母子避難であり、父親が福島県内にとどまり、就労を続ける一方、母親と子どもが放射能の影響を避けるために福島県外に
避難をしているケースが多いと報じられている。こうしたケースは、年少者ほど放射線による影響を長期にわたって受けるために予想外の健康被害を
受ける可能性が高いところから、せめて子を守るために父親が自身の健康に及ぶ危険や生活の不便を顧みずにあえて選択した愛する妻子との別離で
あるところ、その選択の結果として、生計が否応なく父親と母子との二つに分離し、こうしたいわば二重生活により、食費、光熱費、日用品、通信費などの
生活費が増加している上、父親が母親や子どもに会いに来るための交通費がさらに経済的負担となって重くのしかかっている。
区域外避難者は東京電力からも、生活費や交通費の増加に見合う賠償は十分に受けられておらず、区域外避難者の中でも、東京電力の区域外避難者に対する
賠償の対象区域外として賠償を全く受けられない者すら少なくない。
避難生活が長期化し、経済的にも精神的にも困窮する中で、避難者がこの窮境を乗り切るために、家族との絆を深めることが必要となっていることは論を
またない。とりわけ未成熟の子どもについては、父親とも定期的に会って一家の団欒を味わうことが、その健全な心身の成長にとって極めて重要であると
考えられる。にもかかわらず、交通費を切り詰めるために、家族の交流が減っていくとすれば、この人達の精神的・経済的困窮は救われないことになりかねない。
このような事態を国が放置することは決して許されず、支援が強く求められるところである。
3 報道によれば、10月19日、国土交通省は、福島第一原発事故による避難者に対する高速道路の無料化措置について、対象者を区域外避難者にも
拡大するよう検討していることを明らかにしたとのことである。
かかる措置は一刻も早く当然に取られるべきものであり、いたずらにその実施が遷延されるようなことがあってはならない。
4 よって、当会は国に対し、区域外避難者に対しても、高速道路の無料化措置を直ちに講じるよう強く求める。
なお、もとより、高速道路の無料化措置が講じられるだけでは、区域外避難者に対する支援は十分とは言えない。かかる措置を講じた後にも、引き続き、
区域外避難者のニーズに応じた適切な支援措置を速やかに検討し、可能な限り早期に実施するよう求めるものである。
2012年(平成24年)10月31日
新潟県弁護士会
会長 伊 藤 秀 夫