原子力損害賠償紛争解決センターの和解案に対する東京電力の回答に関する会長談話
東京電力福島第1原子力発電所の事故は、発生から11か月経過した現在も収束の目途が立っておらず、本県へ避難している被害者の数は
7000人を越えている。当会では、県内各地及び会津地方で相談会を実施し、被害者の声に耳を傾けてきたが、同事故によって生活の基盤を
根底から奪われた被害者への補償は遅々として進んでおらず、その精神的苦痛や経済的困窮は日々亢進しているのが現状である。
早期に被害者を救済することは何事にも優先する課題といえる。
そのような中、昨年12月27日、原子力損害賠償紛争解決センター第1号事件において、仲介委員から和解案が示された。和解案は、
被害者の過酷な窮状に対する配慮のうかがえる内容となっており、特に和解案の中核をなす以下の3点は、被害者の早期救済という観点から
高く評価できるものである。
1 慰謝料の増額
かねてから、中間指針の慰謝料額は低額に過ぎるとの批判があるところ、和解案では、中間指針はあくまでも目安であり、個々の避難者の
属性や置かれた環境等によって慰謝料の増額を妨げるものでないとの見解が示された。その上で、6か月経過後の慰謝料減額を行わず、
更に申立人らの個別事情を考慮して慰謝料を加算するのが相当であるとした。
2 内払いの提案
和解案では、事故の規模と重大さ、何よりも従前の生活に戻れる見通しが未だ明らかでなく、現時点で損害全体の被害回復がなしえないことを
考慮して、内払いの和解が提案された。同提案は、被害者が現時点で確定している損害について一旦賠償を受け、将来の損害等の現時点で
確定していない損害については別途賠償請求することを可能にするものである。被害者は、一旦和解してしまうと、今後は何の請求も
できなくなるのではないかという懸念を抱かずに済み、早期の救済に極めて役立つ提案であると評価できる。
3 仮払金の取扱い
すでに被害者に対して支払われている仮払金については、和解提示額からは控除せず、後日、損害額全額が確定した際に清算するのが相当で
あるとした。
これにより、和解に基づいて支払われる実際の金額が減らされずに済むため、被害者の生活再建に資するものと評価できる。
和解案の中核をなす上記3点は、被害者の早期救済にとって極めて重要な意義をもつものであり、第1号事件に止まらず、他の全ての
被害者救済の指針として扱われることが望ましい。したがって、当会としても、和解案に対する東京電力の対応に大いに注目していた
ところであるが、本年1月26日、東京電力は和解案に対する回答において、上記3点の受入れをいずれも拒絶した。
昨年10月28日、東京電力は、原子力損害賠償支援機構に公的資金援助の申請を行い、政府に対して特別事業計画の認定を申請した。
その中で東京電力は、「親身・親切な賠償のための5つのお約束」を掲げ、「裁判費用を要しない原子力損害賠償紛争審査会の利用は、
被害者の方々の御負担の軽減や紛争の迅速な解決に役立つ」、「被害者の方々の立場に立ち、紛争処理の迅速化に積極的に貢献するため、
原子力損害賠償紛争審査会において提示される和解案については、東電として、これを尊重することとする。」と明確に述べていた。特別事業計画は、
公的資金援助のための条件であるから、「5つのお約束」はまさに国民全体に対する約束に他ならない。
このように東京電力が和解案の尊重を約束として掲げていたにもかかわらず、今回、和解案の中核をなす上記3点の受け入れを悉く拒絶したことは、
国民に対する約束違反と非難されても仕方のないところである。当会としては、このような東京電力のかたくなな態度が、今後の被害者に対する
適切な救済の実現を遅らせかねないことを深く憂慮するものである。
よって、当会は、東京電力に対し、当初の約束にしたがって、原子力損害賠償紛争解決センターの示す和解案を最大限尊重するよう強く
求めるとともに、政府に対しても、被害者の早期救済を図るべく、東京電力に対する指導・監督を徹底するよう求めるものである。
2012年(平成24年)2月13日
新潟県弁護士会
会長 砂 田 徹 也