海賊対処法に反対する会長声明
第171回通常国会に提出されていた「海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律」案は、6月19日参議院で否決されたが、同日、
衆議院の特別多数決で再可決され法律として成立した(以下「海賊対処法」という。)。この海賊対処法は、日本国憲法に違反するおそれが
きわめて強いものである。
海賊対処法は、海賊行為に対して海上保安庁が対処するだけでなく、自衛隊に対して、活動地域や保護対象となる船舶について何らの限定を
加えることなく、公海上で、すべての国籍の船舶に対する海賊行為に対処し、かつ、一定の場合には武器使用まで行うことを認めた。しかも、
同法は、緊急な事態に対処するための特別措置法ではなく、恒久的な対応法として位置づけられている。同法は、領海の公共秩序を維持する
目的の範囲(自衛隊法3条1項)を遙かに超えて、自衛隊の活動地域を全世界の公海にまで拡張し、一定の場合には、自衛隊に武器使用まで行う
ことを可能にするものである。日本国憲法は、恒久平和主義の精神に立ち、第9条において武力による威嚇又は武力の行使を放棄しているのであり、
自衛隊の海外活動に対しては憲法上制約が課されていると解されるところ、海賊対処法は、この憲法上の重大な制約に違反するおそれがきわめて大きい。
また、海賊対処法では、武器使用の要件が、「他に手段がないと信ずるに足りる相当な理由」(同法6条)など、きわめて曖昧な規定であり、
恣意的な判断のもとに安易に武器使用がなされる危険性を否定できない。
さらに、同法は、防衛大臣が内閣総理大臣の承認を得て、自衛隊の海外対処行動の判断を行うものとし、国会へは事後的な報告で足りると
されるのであり、国会は承認機関ですらない。それだけでなく、同法は、急を要するときには、防衛大臣が必要となる行動の概要を内閣総理大臣に
通知すれば足りるとし、内閣総理大臣の承認すらも不要としている。これらも国民主権、民主的統制を不当に軽視するものである点で、決して
看過できない重大な問題である。
海賊行為は、深刻な国際問題であり、現在の海賊行為が行われているソマリア沖の問題について、わが国を含めた国際協力が必要である。
しかし、国際紛争を解決する手段として武力を放棄し、恒久平和主義を宣言した日本国憲法の下、わが国が海賊対策としてなすべきことは、
日本国憲法が宣言する恒久平和主義の精神にのっとり、無政府状態を原因とする貧困状態の解消に向けた支援活動など、非軍事的国際協力である。
当会は、日本国憲法を尊重し、擁護する立場から、海賊対処法を執行することなく、速やかにその廃止の手続を執るよう要請する。
2009年(平成21年)7月21日
新潟県弁護士会
会長 和 田 光 弘