定額給付金に関する会長談話
2009年3月4日、「景気後退下での住民の不安に対処するため、住民への生活支援を行なう」ことを目的とした定額給付金の支給が決定された。
総務省の事業概要によれば、基準日(平成21年2月1日)の時点で、住民基本台帳または外国人登録原票のいずれかに載せられている人たちに
給付金を支給することとしたものの、その支給先としては、個々の住民にではなく、住民票上の世帯主に一括して支給することとした(但し、
外国人登録者の場合には個々の住民に支給される)。しかも、申請期限は受付開始から6ヶ月としている。
しかし、配偶者からの暴力等により住民票の異動をせずに生活しているDⅤ被害者の人たち、実際には別居しているが離婚問題が解決するまで
住民票を異動できない事情がある人たち、基準日前に離婚や別居が合意されたが住民票の異動が間に合わなかった人たち、基準日直後に別居に
至った人たち、あるいは、離婚事件に限らずとも訳あって住民票の住所地に居住していない人たち(ホームレス、ネットカフェ難民等)など、
住所と居所が相違する人たちは多数存在する。逆に、住所と居所は同一でも、家庭内別居のまま係争している夫婦や家族もいる。
これらの人たちとしては、上記基準に従い、画一的に、世帯主に対して定額給付金が支給された場合には、加害者だったり、離婚紛争の相手方
であったり、人間関係が非正常な家族であったりする世帯主等に対して、直接、定額給付金の交付を求めなければならないことになる。しかしながら、
このような行動が期待できないことは、事案の内容を考えれば自ずと明らかである。
そうすると、これらの人たちは、具体的権利である定額給付金受給権を事実上行使できず、同権利が否定されたに等しい結果となりかねない。
新潟県弁護士会は、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする団体として、国の施策実施に際し、このような実質的不平等が、いわゆる
社会的弱者の側に発生し又は発生する恐れが極めて高い状況にあること、それにも拘らず、その抜本的対策が採られていないことについて深く憂慮する。
よって、定額給付金事業の実施主体である新潟県内の各地方自治体に対し、次の通り要望する。
①まず、画一的処理に親しまない人たちが多数いること及び具体的支給方法如何では、憲法で保障された平等権を侵害するおそれがあることを
具体的に認識すること、
②それらの問題に的確に対応するため、個々の受給者の事情にも十分配慮すること、例えば、以下の諸事情のある場合には、当該受給者分の
定額給付金の世帯主への支給を一旦中止して対応を検討する、弁護士会の法律相談や法テラスを紹介するなどの配慮がなされるべきである。
ア 別居家族やDV被害者の代理人弁護士から地方自治体に対して、別居家族や紛争当事者分の定額給付金を世帯主へ支給しないよう要請があった場合
イ 基準日以降一定期間内(例えば6ヶ月以内)に離婚届出をした夫婦の場合(この事実は支給する地方自治体に顕著である)
ウ その他、以下の書類が提示された場合
離婚後の住民票、DⅤの保護命令、調停調書、判決、法的紛争が係属中であることを証する文書、別居者の賃貸借契約書、
その他客観的に別居の事実を確認できる文書など
以上のような事例においては、紛争が6ヶ月程度では解決しない場合も多いので、申請日と支給時期が大きく乖離する場合にも、支給時期についても
柔軟な対応や格段の配慮を行うよう要望する。
2009年(平成21年)3月23日
新潟県弁護士会
会長 髙 野 泰 夫