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お知らせ

「防災の視点から空き家対策を一層推進することを求める意見書」

2019年(令和元年)6月18日に発生した山形県沖地震は,多くの家屋に損壊を生じさせた。地域特性を反映し,空き家の損壊も少なくない。
そして,空き家の場合,所有者による修繕などを期待しにくいとの事情もあり,屋根瓦が未改修であるなど,危険な状態のまま放置されている空き家も散見されるところである。
危険な空き家の発生の問題は,決して震災時特有の問題ではない。しかし,山形県沖地震は,空き家問題が防災上重要な問題であることを如実に示した。
今後発生しうる地震に備える意味でも,以下のとおり,空き家対策を推進すべきである。

1 所有者が明らかな空き家
空家等対策の推進に関する特別措置法(以下「法」という。)第14条は,そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態等にある特定空家等について,必要な措置の助言・指導,勧告,命令(命令に先んじて意見提出・公開による意見の聴取の機会付与)を経て除却等の行政代執行を行うことができると規定している。上記各規定は,所有権に対する配慮のため,慎重な手続を定めていると評価できる。
他方,地震により,倒壊及びそれに伴う人身への危険が切迫しているような場合にまで上記各規定の遵守を求めることにより人身の安全確保の観点で支障が生ずることも想定される。
よって,地震等により倒壊の危険及びそれによる人身被害が切迫しているような場合においては,行政代執行を行う前提となる手続のうち核心的な手続保障を定める法第14条第3項以降以外の部分,すなわち助言・指導,勧告について省略することができる旨の規定を設けるなど,適宜手続の緩和を検討すべきである。人身被害が切迫している状況下においては,最低限所有者による意見書提出や公開の場での意見聴取の機会が保障されるのであれば,所有権保障という観点からも許容されるといえる。
なお,鶴岡市空き家等管理及び活用に関する条例7条は必要な最小限の措置をとることができると規定しているが,建物の撤去等までできるのかどうか必ずしも明確ではないし,実際今般の震災においても鶴岡市は同規定による対応をしていない。所有権の核心にかかわる問題であるため条例という形式で規定することには限界があり,政府において法律という形で解決策を示すべきである。
また,行政代執行が所有権の侵害につながりかねない手続である以上,本来は丁寧な手続が行われるべきものである。政府において空家等対策計画についての十分な財政的支援を行うとともに(法第15条第1項), 各自治体においても地震等を視野に入れつつ平時から計画的に特定空家等についての措置(法第6条参照)を行
うべきであることは言うまでもない。

2 相続人が不明あるいは不存在である空き家
相続人が不明あるいは不存在である空き家については,利害関係人等の請求により選任された相続財産管理人が管理を行い(民法第952条等), 残余財産については国庫に帰属することとされている(民法第959条)。
しかし,長らく,国において国庫帰属を事実上拒否するとの運用が継続してきたため,相続財産管理人において処分の方策がないのにそのままとなっている空き家が存在する。山形県沖地震の被災地においても,そのような空き家が存在し,周辺に危険を生じさせているところである。
この点,財務省理財局国有財産業務課長名の平成29年6月27日付事務連絡は,
「相続人不存在不動産については,管理又は処分をするのに不適当であっても,引継ぎを拒否することができない」ことを明記している。
よって,各財務局においては,同通知の趣旨に従い,引継ぎを求められた空き家についても,漏れなく国庫帰属の手続を行い,その上で補修など所要の措置を講ずることを求める。
なお,災害発生時点において国庫帰属がなされていない物件については,自治体において相続財産管理人を相手として空家等対策の推進に関する特別措置法所定の措置を取ることもありうる。しかし,そのような事態に立ち至る前に,平時において,速やかに国庫帰属及び国による取り壊しなど適切な対処がなされるべきものである。

3 破産財団から放棄された空き家
法人破産の場合,破産管財人が放棄した空き家等の財産については,債権者又は株主において清算等開始の申立てを行い,その結果選任される清算人において管理すべきことになる。
しかし,債権者などには,破産管財人において処分できず放棄しなくてはならない空き家等のために清算開始を申し立てるメリットが乏しいことも少なくない。よって,法人破産において放棄された空き家については,管理人が不在のまま放置される可能性が高い。実際,山形県沖地震の被災地においても,破産管財人から放棄された空き家が放置されたままとなっている事例がある。
この点,政府において,破産管財人が放棄した空き家等不動産についても民法959条のような国庫帰属規定を設けるなど,立法による措置を検討すべきである。なお,国庫帰属との規定を設ける場合には,抵当権者などの債権者による権利行使の機会を国庫帰属前に保障するなどの規定も不可欠と考えられる。


2019年(令和元年)10月23日
山形県弁護士会
会長 脇 山   拓

新潟県弁護士会
会長 齋 藤   裕


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