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お知らせ

秘密保護法の5年後見直しに当たり秘密保護法の抜本的見直し等を求める意見書  

 当会は、表現の自由の侵害の危険を含む秘密保護法の廃止を含めた抜本的見直しを求めてきた。
 秘密保護法については2019年12月に施行後5年見なおしの時期を迎えることから、以下のとおり最低限の見なおしを求める。

第1 意見の趣旨 
1 特定秘密の指定要件である非公知性については、事実上不特定多数の人に知られるに至った場合は、行政機関の公表の有無にかかわらず、非公知性が失われたものと評価されるとの規定を設けるべきである。
2 特定秘密記載文書についてはすべて国立公文書館に移管することを公文書管理法などにおいて規定すべきである。
3 両院情報監視審査会における調査の実効性を確保するため、特定秘密の提示要求のための採決要件を緩和し、衆議院情報監視審査会規程及び参議院情報監視審査会規程に明文の規定を置くべきである。
4 両院情報監視審査会からの求めがあったときは、行政機関は、すべての非開示情報等の報告などをしなければならない旨の規定を国会法等に設けるべきである。
  特定秘密に関しても、サードパーティールール(第三者に情報を提供する場合、当該情報を提供した外国の情報機関等の了承を事前に得た上で行う原則)に係る特定秘密につき、サードパーティールールにかかる特定秘密であることを理由とする提供拒否は原則として許されないとした上で、提供を拒否することができる場合について明確な要件や手続が定められるべきである。
5 情報保全監察室の幹部職員につき、いわゆるノーリターン・ルールを定める等して情報保全監察室の独立性を高めるべきである。
6 両院情報監視審査会及び独立公文書管理監に、特定秘密の指定の是非のみならず、各行政文書に記載された情報が特定秘密として法律の保護の対象となりうるものかどうかについて審査する役割を持たせるべきである。
7 両院情報監視審査会及び独立公文書管理監において、特定秘密以外の秘密の指定の適否も審査しうるようにすべきである。
8 市民が秘密指定の是非を争いうる制度をもうけるべきである。

第2 意見の理由 
 当会ほか広範な市民の反対の声にもかかわらず成立した秘密保護法は、20
14年12月に施行された。
「特定秘密の指定及びその解除並びに適性評価の実施に関し統一的な運用を図
るための基準」は、「政府は、特定秘密の指定及びその解除並びに適性評価の実施に関し、常に その運用の改善に努めつつ、定期的に、又は必要に応じて本運用基準につい て見直しを行うものとする。なお、特定秘密保護法の施行後5年を経過した 場合においては、その運用状況について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に応じて所要の見直しを行うものとする。また、見直しの結果については、これを公表するものとする。」としている。
よって、2019年12月までには秘密保護法の見直し論議がなされるべきことになる。
両院情報監視審査会や独立公文書管理監の働きを見るとき、過度に広範な秘密指定がなされてきており、かつ、恣意的な秘密指定等についてチェックがなされているとは到底言えない状況があり、秘密保護法は市民の知る権利を重大に侵害する危険性が高いものとして、廃止も含めた抜本的な見直しが必要だと考える。特に以下に述べる点については秘密保護法の運用過程で問題性が一層明らかとなっているので、最低限改めることが必要である。 

1 非公知性の要件
 特定秘密の指定要件である非公知性については、「特定秘密の指定及びその解除並びに適性評価の実施に関し統一的な運用を図るための基準」(以下、「運用基準」という)において、「非公知性の判断は、現に不特定多数の人に知られていないか否かにより行うものとする。当該情報と同一性を有する情報が報道機関、外国の政府その他の者により公表されていると認定する場合には、たとえわが国の政府により公
表されていなくても、本要件を満たさない」とされている。
 ところが、従前、政府以外により公表等された情報についても、非公知性の要件を満たす取扱いがされていると疑われる事例があった。
 衆議院情報監視審査会平成28年年次報告書によれば、情報監視審査会の質疑において、委員から、ある特定秘密の内容に関して、「公知であるか否か」との質問があったのに対し、ある行政機関は、「事実上、その内容に一般に認知されている内容が含まれているかといえばその可能性はある。しかし、行政機関として、公表していないものであり、結果として公知になったとしても、当該行政機関が認めたことではなく、公知かどうか判断できない」と答弁している。  
 この答弁は、行政機関が公表したものでない限り、一般に認知されている内容が含まれているかどうか確認のしようがなく、当該情報の非公知性が失われたかどうかは判断しない(できない)とするものと解され、明らかに運用基準に反するのみならず、特定秘密が要件を欠くに至ったときは、速やかにその指定を解除するものとする秘密保護法4条7項に反する。
もとより、実質的にみても、既に一般に報道などによって認知されている情報を特定秘密のままにしておくことは、違法ないし不当に市民の言論活動を制約するおそれがあり、許容しがたい。
 特定秘密の内容が外国政府や報道機関その他の者により公開されるに至った場合、行政機関の公表の有無にかかわらず、非公知性が失われることを法文上改めて確認すべきである。
2 特定秘密記載文書の国立公文書館への移管
 秘密保護法4条6項は、指定の有効期間を30年超とすることについて内閣の承認が得られなかった特定秘密が記載された行政文書ファイル等は保存期間満了とともに国立公文書館に移管しなければならないものとし、運用基準は、その他に、「行政機関の長は、指定の有効期間が通じて30年を超える特定秘密にかかる情報であって、その指定を解除し、又は指定の有効期間が満了したものを記録する行政文書のうち、保存期間が満了したものは、公文書管理法第8条第1項の規定にかかわらず、歴史公文書等として国立公文書館等に移管するものとする」としている(運用基準15ページ)。
  これらの規定は、後世の国民により特定秘密の指定等の適正を監視することを可能にするためのものである。この考え方によれば、行政機関の長において定める指定期間がたまたま30年以下であったからといって、指定等の監視をする必要性がないということにはならない。ところが、行政機関の長が、指定の適正チェックを免れるため、意図的に指定期間を30年以下にすれば、自ら廃棄し、国立公文書館に移管しないで済むので、指定の適正チェックを事後的に受けることを回避できてしまう。これは移管制度の潜脱になりかねない。
  このような観点からすると、秘密保護法4条6項は、特定秘密の指定及び解除を適正に行うための規定としては不十分であるから、原則的に特定秘密が記載された全ての行政文書を国立公文書館等に移管する旨の規定が公文書管理法等に設けられなければならない。
3 両院情報監視審査会における特定秘密の提示要求のための採決要件緩和
 両院情報監視審査会の調査権限はより積極的に行使されなければならない。両院情報監視審査会が調査を行うに際しては、実際に特定秘密が記載された文書を確認することが不可欠な場合も存在するはずである。
 調査のために必要な特定秘密文書を確認しないまま調査を行わざるを得ないとすれば審査会の存在意義は大きく減殺されることとなる。
 したがって、特定秘密の提示要求については、例えば委員2名以上の賛成により行うことを可能にするなど、要件を緩和した衆議院情報監視審査会規程及び参議院情報監視審査会規程に規定を明文化すべきである。審査会の委員構成は国会における議席数を反映しているため、過半数要件としたままであると政府の活動をチェックするという審査会の役割を十分に果たしえないことになる。 
4 行政機関による両院情報監視審査会への説明
 (1) 非開示情報の説明
両院情報監視審査会は、行政における特定秘密の保護に関する制度の運用を常時監視するために設けられているのであるから(国会法102条の13)、その実効性の確保のためには、情報監視審査会が必要とする情報が、行政機関から十分に提供されなければならない。したがって、本来、特定秘密以外の情報は、情報監視審査会委員の求めに応じて、すべて報告されるのが原則である。
  しかるに、衆参両院の情報監視審査会平成28年年次報告書によれば、なお、情報監視審査会における質疑で委員の求めがあっても、非開示情報等の報告等を拒否する例が少ないないことがうかがわれる(例えば、外務省は、拉致被害者からの聞き取り調査結果について特定秘密に指定されたことを否定しつつ、審査会での内容の説明を拒否している)。
  そうであれば、すべての非開示情報等の報告等をしなければならない旨の規定を国会法等に設ける必要がある。
(2) サードパーティールールにかかる情報の説明
  衆議院情報監視審査会平成28年年次報告書によると、衆議院情報監視審査会の調査において、サードパーティールールにかかる情報について提供することができる場合はどのような場合であり、どのよう方法で提供可能かについて明確にされなかった。
  参議院情報監視審査会平成28年年次報告書によると、参議院情報監視審査会の調査によっても同様であり、同報告書ではサードパーティールールにかかる特定秘密について、提供に関する統一的な手続の検討が要請されている。
  秘密保護法を審議した国会では、サードパーティールールの適用がある特定秘密であっても、「秘密会にさえ提供できないと限定されるものは極めて本当にまれ」であり、「国会に提供をしてはいけないと限定される本当に例外的な場合に限ってサードパーティールールの適用がある情報であるので審査会に提供できないと疎明する」との政府答弁がなされていた。つまり、秘密保護法成立過程においては、サードパーティールールを理由とした提供拒否は原則として許されず、極めて例外的な場合に限って提供しないことが許容されるものとされていたのである。
  従って、サードパーティールールに係る特定秘密については、秘密保護法成立過程における政府答弁に従い、原則として情報監視審査会への提供拒否は許容されないとした上で、提供しないことが許容される場合の要件や手続について、明確なルールが定められるべきである。   
 5 情報保全監察室職員の増強と独立性確保
 (1) 独立公文書管理監の設置経緯
   秘密保護法の審議過程においては、特定秘密の指定が恣意的になされることが強く懸念されたところである。 
   独立公文書管理監は、秘密保護法附則9条の規定に基づき、秘密保護法の適正な運用を確保するためには、独立した公正な立場から検証・監察を行う機関が必要との認識の下にその設置などの検討が進められた結果、内閣府に設置された。
   情報保全監察室は、特定秘密指定等の検証を行うものであり、独立公文書管理監がその室長となる。情報保全監察室は独立公文書管理監の手足となるスタッフということである。
 (2) 情報保全監察室の独立性
   情報保全監察室には独立かつ公正の立場から検証・監察を行うことが求められており、組織としての独立性の確保は不可欠である。
   例えば、アメリカでは、カーター政権下で情報安全保障監督局が設立されているところ、情報安全保障監督局は、組織としてはアメリカ国立公文書記録監督局に属する。また、アメリカでは情報安全保障監督局の職員は出身機関には戻らない。いわゆるノーリターン・ルールによる運用がなされている。
   他方、日本の情報保全監察室の職員は、複数の省庁からの出向者であり、多数の秘密指定を行っている防衛省、外務省及び警察庁からの出向者も含まれているものと考えられる。
   現在の検証・監察においては、対象となる省庁の出身者ではない職員が検証・監察を担当し、職員の出身省庁の検証・監察を担当しない仕組みが採用されているようだが、他方で、それで知見を生かした十分な検証・監察をなしうるのか、出向者が出身行政機関に戻った場合に検証・監察のノウハウが各行政機関に伝わり、検証・監察の実効性を損なう事態が発生するという懸念を払拭することができない。
   したがって、情報保全監察室の職員のうち少なくとも幹部職員については、出身行政機関には戻らないことを前提とするノーリターンルールを定めるなどして、より情報保全監察室の独立性を確保することが必要である。
6 特定秘密が記載された文書等が秘密保護法による保護に値するかどうかの検証
  国会法102条の13は、両院情報監視審査会の権限として、特定秘密の指定状況等の調査としている。
  情報保全監察室の設置に関する訓令は、同室の権限を特定秘密の指定等の検証等とさだめる。
 いずれにしても、特定秘密の指定の適否をチェックする役割を負っているものの、各文書等に記載された情報が特定秘密として保護に値するかどうかをチェックする役割は負っていない。そのため、例えば独立公文書管理監においては、特定秘密の記録とその表示の整合性を確認するため行政文書の確認は行われているが、各文書等に記載された情報が特定秘密として保護に値するかどうかという観点での確認はされておらず、結果としてもこれまで秘密指定自体が違法とされたものは一件もない。
 秘密保護法3条2項1号は、特定秘密が記載されるなどした行政文書等について特定秘密の表示を行うこととしている。1つの特定秘密の指定はかなり広範な情報を含んだものとなりうるので、1つの特定秘密についてかなりの数の行政文書などが作成されることがありうる。その場合に特定秘密の指定自体についてのみチェックをし、特定秘密が記載された行政文書等に記載された情報が特定秘密としての要件を満たしているかどうかチェックしないということであると、本来特定秘密としての保護がなされるべきではない情報が記載された行政文書等まで特定秘密としての表示がなされる危険性がある。
 そのため、国会法などを改正し、よって両院情報監視審査会及び情報保全監察室において特定秘密の指定等のみならず、特定秘密が記載された文書等に記載された情報が秘密保護法による保護を受けるべきものかどうかのチェックも行いうるようにすべきである。
 なお、アメリカでは、最初に行われる原機密指定のみならず、そこから新たに生成された派生秘密についてもISCAP(省庁間機密指定審査委員会)等によるチェックの対象となり、個別文書に記載された情報の秘密指定の是非までチェックされ、秘密解除がなされていることが参考になる。
7 特定秘密以外の秘密指定の審査
  両院情報監視審査会も独立公文書管理監も特定秘密以外の秘密指定の適否を審査する役割を担ってはいない。
  しかし、実際には特定秘密以外の秘密(特別防衛秘密、防衛秘密、極秘、秘など)がある。これらについても恣意的に指定された場合に市民の知る権利が侵害されることは特定秘密と同様であるが、それを実効的にチェックする仕組みが存在しない。
  よって、両院情報監視審査会及び独立公文書管理監が特定秘密以外の秘密指定の適否を審査すべきことを法律上明記すべきである。
8 市民が秘密指定の是非を争いうる制度の創設
  秘密指定が恣意的になされる事態を抑止するため、市民の異議申し立てに応じて第三者委員会が秘密指定の是非について判断し、秘密指定が不適切との結論となった場合には行政機関においてそれに従わなくてはならないとの制度を設けるべきである。アメリカにおいて市民がISCAPに秘密指定解除の申し立てをすることができることとされ、実際に成果をあげているが、それが参考となる。
  なお、その実現方法としては情報公開法の改正も考えられる。
  情報公開法5条3号、4号は以下のとおり定める。

   第五条 行政機関の長は、開示請求があったときは、開示請求に係る行政文書に次の各号に掲げる情報(以下「不開示情報」という。)のいずれかが記録されている場合を除き、開示請求者に対し、当該行政文書を開示しなければならない。
三 公にすることにより、国の安全が害されるおそれ、他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国若しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報
四 公にすることにより、犯罪の予防、鎮圧又は捜査、公訴の維持、刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報

  ここで国の安全、外交、公共の安全にかかわる情報について、行政機関の長が開示により支障が生ずると「認めることにつき相当の理由がある情報」について非開示となしうる規定となっている。さらに、形式上秘密指定されていないような情報を非開示とすべき必要性は乏しいと考えられるため、情報公開法5条3号、4号については、秘密指定されていることを非開示の要件として追加することも考えられる。その場合、市民の申し立てを受け、特定秘密を含む秘密指定の是非を情報公開審査会や裁判所がチェックしうることになる。さらに情報公開審査会などの決定について行政機関が尊重することを情報公開法などに規定することにより、市民の申立てを受けた第三者機関が秘密指定の是非について判断し、行政機関がそれに拘束されることとなる。
9 小括
  以上のべたとおり、市民の知る権利を保障するため、意見の趣旨のとおりの改正が最低限なされるべきである。

2019年(令和元年)12月10日  
新潟県弁護士会
会長 齋 藤   裕   


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