児童扶養手当の更新時手続におけるプライバシー保護を求める会長声明
児童扶養手当は、「児童の福祉の増進を図ることを目的」に、「父又は母と生計を同じくしていない児童が育成される家庭の生活の安定と自立の促進に寄与するため、当該児童について」支給されるものである(児童扶養手当法1条)。児童扶養手当が、1人親家庭の児童の健全育成に重大な役割を果たしていることは周知のとおりである。
ところで、児童扶養手当法第4条2項は以下のとおり定める。
「前項の規定にかかわらず、手当は、母又は養育者に対する手当にあつては児童が第一号から第四号までのいずれかに該当するとき、父に対する手当にあつては児童が第一号、第二号、第五号又は第六号のいずれかに該当するときは、当該児童については、支給しない。
四 母の配偶者(前項第一号ハに規定する政令で定める程度の障害の状態にある父を除く。)に養育されているとき。
六 父の配偶者(前項第一号ハに規定する政令で定める程度の障害の状態にある母を除く。)に養育されているとき。」
なお、四号は、平成22年改正前には七号であった。
また、児童扶養手当法3条3項は以下のとおり定める。
「この法律にいう「婚姻」には、婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある場合を含み、「配偶者」には、婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含み、「父」には、母が児童を懐胎した当時婚姻の届出をしていないが、その母と事実上婚姻関係と同様の事情にあつた者を含むものとする。」
よって、児童扶養手当法の解釈からして、児童の母や父が事実上の婚姻関係にあり、その事実上の婚姻関係上の配偶者が児童を養育していると言える場合、児童扶養手当が支給されないことがあることになる。
この点、各都道府県民生主管部(局)長あて厚生省児童家庭局企画課長通知「児童扶養手当及び特別児童扶養手当関係法令上の疑義について」(昭和五五年六月二三日)(児企第二六号)は、「児童扶養手当は、母がいわゆる事実婚をしている場合には支給されない。(児童扶養手当法第四条第二項第七号及び第三条第三項)これは、母が事実婚をしている場合には実質上の父が存在し、児童はその者から扶養を受けることができるので、そもそも児童の養育費たる性格をもつ本手当を支給する必要性が存在しないからである。」としている。
よって、児童扶養手当受給者について、事実上の婚姻関係の有無を確認すること自体は正当性を持ちうると考えられる。
しかし、当会会員による県内自治体の悉皆調査及びその結果の情報提供があり、新潟県内の一部自治体において、児童扶養手当の現況届の際、事実上の婚姻関係のみならず、父母の交際状況まで聞き取っていることが判明した。
事実上の婚姻関係の有無を確認するのであれば、週に一定日数以上寝泊りしている、あるいは経済的援助を行っている交際相手の有無等を確認することで十分であり、そこまでに至らない交際の状況まで確認するのは不必要であり、それを超える交際状況について確認することは受給者のプライバシーに対する配慮が十分ではないと評価されうるものである。ほとんどの自治体は、その個人情報保護条例において、「実施機関は、個人情報を収集するときは、所掌する業務の遂行に必要かつ最低限の範囲内で行わなければならない」と定めているはずであるが、かかる規定にも違反する可能性がある。
よって、当会としては、各自治体に対し、事実上の婚姻関係の有無を確認するのに最低限必要な事項のみ確認することとするよう取扱いの改善を求める。
2019年(令和元年)12月10日
新潟県弁護士会
会長 齋 藤 裕