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お知らせ

新型コロナウイルス感染者の行動履歴開示の是非について早急かつ慎重な 検討を求める会長声明

国内での新型コロナウイルス感染が拡大しており、新型コロナウイルス感染者の行動履歴の開示を求める声も出てきている。
他方、自治体などにおいては、プライバシーの観点から開示に消極的な自治体もあるところである。
このように各自治体における対応はまちまちとなっており、全国知事会は政府に統一的な対応方針を示すよう求めているところである。
そもそも、新型コロナウイルス感染者の行動履歴をおおむね明らかにすると、その個人が特定されるおそれがある。
よって、この問題は個人情報保護ともつながるものであり、本来、各地の個人情報保護条例を参酌して対応すべきである。
そして、県内の多くの自治体の個人情報保護条例は似たような内容となっている。
例えば、新潟県個人情報保護条例10条は以下の内容となっている。
(利用及び提供の制限)
第10条 実施機関は、個人情報取扱事務の目的以外の目的のために個人情報(定個人情報を除く。以下この条において同じ。)を当該実施機関内において利用し、又は当該実施機関以外のものに提供してはならない。ただし、当該個人情報の利用又は提供が次の各号のいずれかに該当するときは、この限りでない。
(1) 法令等の規定又は各大臣等の指示に基づくとき。
   (⑵号省略)
(3) 個人の生命、身体又は財産の安全を守るため、緊急かつやむを得ない必要
  があると認められるとき。
 (⑷~⑺号省略)
1号については、「厚生労働大臣及び都道府県知事は、第十二条から前条までの規定により収集した感染症に関する情報について分析を行い、感染症の発生の状況、動向及び原因に関する情報並びに当該感染症の予防及び治療に必要な情報を新聞、放送、インターネットその他適切な方法により積極的に公表しなければならない。」と定める感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律16条が該当するという考えもありうる。このような考えに立つ場合、同法16条1項は「感染症の予防及び治療に必要な情報」を公表しなければならないとしているため、「感染症の予防及び治療に必要な情報」に該当するかどうかが問題となる。
3号については、新型コロナウイルス感染者の行動履歴を開示することに「緊急かつやむを得ない必要が認められるとき」には、行動履歴の開示は許されることになる。
よって、新型コロナウイルス感染者の行動履歴を開示することが、新型コロナウイルスの予防・治療のために必要だと言える場合に行動履歴の開示が許される。
そして、国立感染症研究所などの「新型コロナウイルス感染症に対する感染管理 改訂2020年2月14日」は、感染予防の観点から、新型コロナウイルス感染者の濃厚接触者が「発熱または呼吸器症状を呈し、医療機関を受診する際には、保健所に連絡の上、受診する」としている。そうであれば、濃厚接触者が受診の際に適切な対応をとるためには、自らが濃厚接触者であることを認識している必要があることになる。また、厚生労働省健康局結核感染症課「新型コロナウイルス感染症に関する行政検査について(依頼)」(令和2年2月17日)は、接触歴の有無などを医師が総合的に判断して新型コロナウイルス感染症と疑う者等について行政検査を行うとしている。よって、行政検査の要否が適切に判断されるためにも、医師に濃厚接触者であるかどうかが伝わる必要がある。以上より、感染者の行動経路中、不特定多数の濃厚接触者が存在しうる部分については(一定時間満員電車に乗っていたなど)、行動履歴の開示も許される可能性がある。
他方、新型コロナウイルス感染者に対する差別も想定されるところである。
よって、濃厚接触者の存在が想定されないような行動履歴部分の開示の必要性は大いに疑問である。また、濃厚接触者が特定されるような行動履歴部分については、濃厚接触者に連絡すればよく、行動履歴部分の公表までは不要とも考えられる。
いずれにしても、県内自治体においては、患者発生が明らかになってから泥縄的に対応するのではなく、あらかじめ感染者の行動履歴の開示の必要性の程度や患者のプライバシー保護、開示を行うべき範囲について慎重に検討した上、今の段階から開示についての対応策を定めておくべきである。 
以上
2020年2月22日
新潟県弁護士会
会長 齋  藤     裕


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