旧優生保護法国家賠償請求訴訟の最高裁判所大法廷判決を受けて、全ての被害者に被害の全面的回復を実現するため、一時金支給法の抜本的改正を求める会長声明
本日、最高裁判所大法廷は、旧優生保護法国家賠償請求訴訟の5件の上告審において、旧優生保護法による被害について
除斥期間(改正前民法第724条後段)の適用を制限するとの統一的判断を示した。
旧優生保護法は、「優生上の見地から不良な子孫の出生を防止する」ことを目的として1948年に制定された法律であり、
1996年に母体保護法に改正されるまでの48年間に、障害のある人に対して、不妊手術が約2万5000件、
人工妊娠中絶が約5万9000件、合計約8万4000件もの手術が実施された。
旧優生保護法国家賠償請求訴訟の原告らは、同法に基づいて意思に反して不妊手術を受けさせられた者及びその配偶者らである。
全国各地で提起されている同訴訟においては、これまで、除斥期間の適用の有無について判断が分かれ、
それにより、原告の勝訴、敗訴も分かれてきた。
本判決は、旧優生保護法の不妊手術に関する規定が憲法第13条及び第14条第1項に違反するものであったことを認めた。
その上で、除斥期間の適用について、①立法という国権行為が憲法上保障された権利を違法に侵害することが明白である場合は法律関係の安定という
除斥期間の趣旨が妥当しない面があること、②長期間にわたり国家の政策として多数の障害のある人等に不妊手術という
重大な人権侵害を行ったにもかかわらず、同手術が適法であるとの立場を国がとり続けていたため、
被害者らが損害賠償請求権を行使するのは困難であったこと、③国会は、1996年に旧優生保護法を母体保護法へと改正した後、
適切に立法裁量権を行使して速やかに補償の措置を講じることが強く期待されていたにもかかわらず、長期間にわたり補償の措置をとらなかった上、
2019年4月に成立した「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律」(以下「一時金支給法」という。)
は国の損害賠償責任を前提とするものではなかったこと等を理由として、旧優生保護法による被害に除斥期間を適用することは、
著しく正義・公平の理念に反し、到底容認することができないと判断したものである。
本判決によって、旧優生保護法による被害について、除斥期間の適用が制限され、国は被害者である原告らに対して賠償金の支払義務を負うことが明確になった。
国は、本判決を尊重し、旧優生保護法による被害の全面的回復に向けて、早急に行動しなければならない。
まずは、現在上告受理申立てをしている2件の高等裁判所判決について、すみやかに同申立てを取り下げるとともに、係属中の全ての訴訟について、
原告らとの間で協議を行い、和解による早期の全面的解決を図るべきである。
また、全ての被害者について被害回復を実現するため、一時金支給法を抜本的に改正すべきである。
一時金支給法は、旧優生保護法の違憲性が明記されていないこと、一時金が低額であること及び配偶者に対する支給規定がないことなど、
不十分な点が多い。そもそも、「一時金」という文言が単なる一時的な給付を意味し、損害を償うという趣旨を含まないことを考慮すれば、
この文言自体を「補償金」に改めることがより望ましい。
そこで、現行の一時金支給法を抜本的に改め、旧優生保護法の違憲性を法文に明記するとともに、不妊手術等を受けた者の配偶者を含め、
全ての被害者に対して被害を償うに足りる適正な額の補償金の支給を定めた補償法とすべきである。
旧優生保護法の被害者らは皆すでに高齢であり、亡くなった被害者も多数いるのであるから、上記の被害回復措置は一刻も早く実現されなければならない。
なお、最高裁判所は、当該大法廷での審理及び判決に当たり、弁護団等との協議に基づき、傍聴者向けの手話通訳者の手配、弁論及び判決の内容を
文字で映す大型モニターの法廷内への設置、点字版資料の配布など、障害のある当事者及び傍聴者に向けた様々な配慮を提供した。
当事者向けの手話通訳者等の手配が公費で行われないことなどの課題はあるものの、こうした合理的配慮が全国の裁判所へと広がり、
地方の裁判所でも適切な合理的配慮が提供されることを大いに期待する。
旧優生保護法による人権侵害は、戦後最大規模の重大な人権侵害であり、優生思想に基づく差別・偏見を社会に深く根付かせた。
同法による被害を回復することは、社会全体の責任でもある。
当会は、被害者の尊厳の回復を含む被害の全面的回復が全ての被害者に行き届くまで、真摯に取り組み続けるとともに、
優生思想に基づく差別・偏見をなくし、誰もが互いに尊重し合うことができる社会を目指して、全力を尽くすことをここに改めて決意する。
2024年(令和6年)7月3日
新潟県弁護士会
会長 中村 崇