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お知らせ

安倍晋三元内閣総理大臣の「国葬」に反対し、中止を求める会長声明

1 岸田内閣は、本年7月22日の閣議で、安倍晋三元内閣総理大臣(以下「安倍元総理大臣」といいます。)の「国葬」を
 本年9月27日に行うことを決めました。しかし、この閣議決定には、以下に述べます通り、憲法上・法律上の問題点が数多くあります。

2 もともと「国葬」は、明治憲法下において、天皇の勅令である「国葬令」に基づき、皇族および「国家に偉功ある者」として
 天皇が「特旨に依り国葬を賜う」こととした者を対象にして、実施されていました。
  国葬令は、日本国憲法施行の際現に効力を有する命令の規定の効力等に関する法律第1条により、1947年末にその効力を失いました。
 この法律制定時の国会(帝国議会)において、政府委員は、法律で規定しなければならない事項を規定している勅令については
 同年末までに正規の立法手続により法律に改めたいものと考えていると説明しましたが、同年末までに国葬に関する法律は
 制定されませんでした。
  1967年10月吉田茂元首相の「国葬」が実施され、その費用が予備費から支出されたことに関する質疑が翌年5月9日の
 衆議院決算委員会においてなされた際、水田三喜男大蔵大臣は、「国葬について法令の根拠はない。何らかの基準を作っておく
 必要がある。」旨答弁しましたが、その後も国葬についての法令は制定されず、国葬に関する基準も作成されませんでした。
  1975年に佐藤栄作元首相が死去した際、「国葬」実施が検討されましたが、内閣法制局から「明確な法的根拠が存在しない」との
 見解が示され、「国葬」は実施されず、「国民葬」という名称で葬儀が実施されました。これ以降、首相経験者が死去した際には
 「国葬」以外の方式で死者を弔う儀式(葬儀)が行われてきました。
  このような経緯により、現在、「国葬」に関する法律は存在していません。

3 「国葬」に関する法律が存在しない以上、「国葬」に関しては、まずそれを実施することを可能とする法律を制定することの是非が
 国会で議論される必要があります。しかし、仮にそのような法律の制定が肯定される場合であっても、法の下の平等および
 国民の思想・信条の自由に配慮した基準や実施方法について、国会で慎重に議論して決定される必要があります。
  「国葬」は国が国費で行う葬儀です。葬儀は死者を弔う儀式ですが、ある者につき「国葬」を実施するということは、
 国に功績があったとしてその者を称える意味を有しています。
  このような「国葬」の意味を踏まえますと、そもそも法の下の平等(憲法14条)の下で、特定の者につき「国葬」を実施することが
 許されるのかということ自体が問題になります。
  また、本来、人の死を弔うことは個人の内面的な営みですので、国家がこれを強制したり、介入したりすることは許されません。
 ある死者を弔う意思をもつか否かは国民一人一人の自由に委ねられるべき事柄です。そして、ある者が国に功績があったどうかの評価
 についても国民一人一人異なると考えられます。特に、対象となる死者が政治家であった場合、その評価は一人一人の政治信条によって
 大きく異なると考えられます。したがって、特定の個人を対象として「国葬」を実施することは、国民の思想・信条の自由(憲法19条)を
 侵害することになるのではないかということが問題となります。
  このような憲法上の問題がありますので、仮に国会で議論を行うとしても、憲法上の問題点に配慮した議論が必要です。

4 政府は、「国葬」が内閣府設置法第4条3項33号の「国の儀式」にあたるとして、閣議でその実施を決定できると説明しています。
  しかし、これは本来国会で慎重に審議して決めなければ実施できない事柄について、国会審議を全く行わずに閣議決定のみで実施しようと
 するものであり、憲法が採用する議会制民主主義の根幹を揺るがしかねない決定です。
  内閣府設置法の上記条文は、多数の行政組織が存在する中で内閣府がどのような事務を所掌するのか定めた規定にすぎず、
 「国葬」という国の儀式を内閣府が実施できることを定めた規定ではありません。「国葬」を実施するには、これとは別にいかなる場合に
 「国葬」を実施できるのかという要件を定めた法律が必要なのですが、前述の通り、現在そのような法律はありません。

5 政府は、安倍元総理大臣について「歴代最長の期間、総理大臣の重責を担い、内政・外交で大きな実績を残した」ものと評価して
 「国葬」の実施を決めたと説明しています。
  しかし、安倍元総理大臣の政治家としての業績の評価は、国民全体の中でまだ定まったものにはなっていないと考えられます。
  安倍元総理大臣在任中、憲法上問題のある閣議決定や法律の制定が多数行われました。特に、集団的自衛権の行使を容認する
 閣議決定と安全保障関連法の制定については、圧倒的多数の憲法学者、最高裁判事経験者、内閣法制局長官経験者が明白に
 憲法違反であると指摘して反対し、現在でもその廃止を求めています。
  私たち新潟県弁護士会も、上記に加えて、特定秘密保護法の制定、いわゆる「共謀罪」法の制定、検察庁法の改正等について、
 立憲主義や憲法の基本理念に違反することを指摘し、これらに反対する会長声明等をくり返し発出してきました。
  安倍元総理大臣の在任中になされた上記のような立憲主義及び憲法の基本理念に違反する閣議決定や法律の制定を安倍元総理大臣の
 「実績」として積極的に評価して「国葬」を執り行うことは、それ自体が立憲主義及び憲法の基本理念を揺るがすものと
 なりかねないので是認できません。

6 政府は、「国葬」当日、国民に対して弔意の表明を求めることは見送っていますが、各府省庁で弔旗を掲揚し、葬儀中の一定時刻に
 黙とうすることを決定しました。岸田総理大臣は、「弔意を国全体として示すことが適切だ」とも述べています。
  このため、政府が明示の要請を行わなくとも、自治体や教育委員会が政府の意向を忖度し、「自主的な判断」に基づいて、
 公的機関や学校に対し、弔意の表明を求めることが考えられます。現に、本年7月行われた安倍元総理大臣の葬儀の際、少なくとも
 9つの自治体において、教育委員会から学校現場に対する半旗掲揚の要請がなされました。「国葬」の実施にあたってこうした事態が
 くり返されれば、公的機関や学校、さらには民間においても、弔意の表明やそれに対する同調を求める有形無形の圧力が働くことが容易に
 想定され、国民の思想・良心の自由(憲法19条)が侵害されるおそれがあります。

7 以上から、私たち新潟県弁護士会は、本年9月27日に予定されている安倍元総理大臣の「国葬」に反対し、その中止を求めます。


                                   2022(令和4)年9月14日
                                      新潟県弁護士会
                                         会長 齋 藤 貴 介


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