行政書士法改正に反対する会長声明
日本行政書士会連合会は、行政書士法を改正して、「行政書士が作成することのできる官公署に提出する書類に係る許認可等に関する審査請求、
異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立てについて代理すること」を行政書士の業務範囲とすることを求め、そのための運動を
推進している。その結果、行政書士法の一部を改正する法律案が本年6月13日衆議院本会議において可決され、今後参議院での審議が予定されている。
しかし、以下に述べるとおり、上記業務を行政書士の業務範囲に加えることは国民の権利利益の擁護を危うくするおそれがある。既に、
日本弁護士連合会が2012年(平成24年)8月10日に会長声明で反対の立場を表明したのを始め、複数の単位弁護士会が会長声明で反対の立場を表明して
いるところであるが、当会もここに反対の意見を表明する。反対の理由は、以下のとおりである。
第1に、行政書士の主たる業務は、行政手続の円滑な実施に寄与することを主たる目的とした、行政庁に対する各種許認可関係の書類を作成して提出
するというものである。他方、行政不服申立制度は、行政庁の行った違法又は不当な処分を是正し、国民の権利利益を擁護することを目的とする。
行政手続の円滑な実施に寄与することを目的とする行政書士が、行政処分について是正を求めるということは、職務の性質上、本質的に相容れない。
第2に、行政不服申立ての代理人を務めるに当たっては、行政訴訟の提起を十二分に視野に入れる必要があるため、行政訴訟を含めた高度な専門性と
慎重かつ適切な判断が不可欠であるところ、この点において行政書士の能力担保は十分とはいえない。法的紛争の初期段階において最終的な訴訟段階
での結論まで見据えた対応を行わなければ、国民の権利利益を害するおそれが強い。
第3に、行政書士については倫理綱領が定められているものの、その内容は当事者の利害や利益が鋭く対立する紛争事件の取扱いは前提となっていない。
行政不服申立ては、国民と行政庁が鋭く対立するのであるが、行政書士においてこのような紛争事件を取り扱うだけの職業倫理が確立しているとはいえない。
第4に、行政書士は都道府県による監督を受けるのであり、この点でも、国民と行政庁が鋭く対立する行政不服申立の代理をすることは相当でない。
第5に、仮に行政書士の業務範囲に行政不服申立ての代理権を含めたとしても、その活動分野は限定されることが予想され、影響は小さいとの指摘がある。
しかし、国民の権利利益自体に関する問題を活動分野の大小で計ること自体が相当でない。
第6に、弁護士は、出入国管理及び難民認定法、生活保護法、精神保健及び精神障害者福祉法に基づく行政手続等において、実際に、行政による違法・
不当な処分から国民を救済する実績を上げている。国民の権利利益の擁護を危うくするおそれがあるにもかかわらず、あえて行政書士法を改正して
行政書士の業務範囲を拡大するべき必要性はない。
以上のとおり、当会は、行政書士法の改正による行政不服申立代理権の付与に強く反対するものである。
2014年(平成26年)6月17日
新潟県弁護士会
会長 小泉 一樹