立憲主義を真っ向から否定する内閣総理大臣の発言に抗議する声明
1 安倍内閣総理大臣の発言
安倍晋三内閣総理大臣は、2月5日の参議院予算委員会において、憲法改正の手続きによらず解釈の変更によって集団的自衛権の行使を
容認することが可能であるかとの質問に対し、「政府が適切な形で新しい解釈を明らかにすることによって可能であり、憲法改正が必要だ
という指摘は、これは必ずしもあたらない」と答弁し、憲法解釈の変更によって集団的自衛権の行使を認めることは可能であるとの認識を示した。
また、安倍内閣総理大臣は、同月12日の衆議院予算委員会において、「(憲法解釈の)最高の責任者は私だ。政府答弁に私が責任をもって、
その上で選挙で国民の審判を受ける。審判を受けるのは、内閣法制局長官ではない。私だ。」と答弁し、さらに同月20日の同委員会において、
「政府として責任をもって閣議決定し、そのうえで(国会で)議論いただきたい。」と答弁した。これらの答弁は、政府ないし内閣総理大臣が
自らの責任において憲法解釈を変更できるとの認識を表明したものである。
2 立憲主義を真っ向から否定し憲法の安定性を決定的に損なう
国家の基本法たる憲法によって国家権力に制約を課し、その濫用を防止することによって基本的人権を保障するというのが近代立憲主義の考え方
である。これは、国家権力の恣意的な濫用によって人権侵害が繰り返されてきた痛苦の経験をふまえて、人類が生み出した知恵である。そして、
時の権力が簡単に憲法を変えることができてしまえば「権力に対する制約」としての役割を果たしえないことから厳格な憲法改正手続きが定められた
のである(硬性憲法)。
しかるに、「国家権力に対する制約」たる憲法の内容を、権力者の解釈によって変更できるとすれば、憲法は恣意的な権力行使に対する
歯止めたり得ず、人権侵害を防止することはできない。
政府ないし内閣総理大臣が自らの責任において憲法解釈を変更できるとする安倍内閣総理大臣の一連の発言は、立憲主義を真っ向から否定するもの
であるとともに、厳格な憲法改正手続きを蔑ろにするものであり基本法たる憲法の安定性を決定的に損なうことから、到底容認できない。
3 憲法の基本原理に関する解釈を変更することは許されない
また、集団的自衛権の行使を認めることは、憲法の基本原理の中核をなす恒久平和主義に反するものであることから、時の政府の判断によって
解釈を変更することは許されない。
集団的自衛権をめぐっては、1950年代以降国会で議論が繰り返され、歴代政府は「集団的自衛権の行使は憲法上許されない」とする解釈を
一貫して貫いてきた。
とりわけ、1972年以降の国会答弁では、以下のとおり、明快な論理に基づいて政府の見解が説明されており、その解釈は確立したものと
なっている。すなわち、憲法9条のもとで自衛権の行使が許されるのは、①日本に対する急迫不正の侵害があること、②これを排除するために他の
適当な手段がないこと、③必要最小限度の実力行使にとどまることの3要件をすべて満たす場合のみであり、集団的自衛権の行使は、①の要件を
満たさないことから、憲法上許されないというのが歴代政府の見解である。
このように半世紀以上の長きに渡って検討が重ねられ確立した憲法解釈について、時の政府が、憲法解釈の限界を超えて便宜的、意図的に変更
することは到底許されない。
4 結論
当会は、昨年6月18日に「憲法第96条の憲法改正発議要件緩和に反対する会長声明」を公表し、同年7月9日に同趣旨の総会決議を採択して、
憲法改正発議要件の緩和が「基本法たる憲法の安定性を損なうこと」及び「立憲主義の見地から許されない」ことを指摘してきた。
今回の安倍内閣総理大臣の発言は、基本法たる憲法の安定性を決定的に損なう点でも、立憲主義を真っ向から否定する点でも、憲法改正発議要件を
緩和しようとすること以上に深刻な問題を孕む暴言であり、決して看過することはできない。
よって、当会は、立憲主義を真っ向から否定する安倍内閣総理大臣の発言に対し、強く抗議するものである。
2014年(平成26年)3月11日
新潟県弁護士会
会長 味 岡 申 宰