福井県女子中学生殺人事件再審開始決定に関する会長声明
1 令和6年10月23日、名古屋高等裁判所金沢支部は、いわゆる「福井女子中学生殺人事件」第2次再審請求事件について、
再審開始決定を言い渡した。
2⑴ 本件は、昭和61年3月、福井市内の団地で当時15歳の女子中学生が殺害された事件で、難航する捜査の中、
別件で勾留されていたA氏が前川彰司氏(本件の再審請求人)の犯行である旨をほのめかす供述をし、昭和62年3月、
前川氏は逮捕された。
⑵ 前川氏は逮捕後一貫して無実を訴えたが、同年7月に起訴された。第一審の福井地方裁判所は、変遷を重ねるA氏ら
関係者の供述の信用性を否定し、無罪判決を言い渡したが、第二審の名古屋高等裁判所金沢支部は、懲役7年の逆転有罪判決を
言い渡し、最高裁判所第二小法廷も平成9年11月12日、上告棄却を決定し、有罪判決が確定した。同判決を受け、
前川氏は服役し、平成15年3月6日に満期出所した。
⑶ その後、前川氏は、平成16年7月に再審請求を申し立て、平成23年11月30日、名古屋高等裁判所金沢支部は
再審開始決定を言い渡したが、再審異議審の名古屋高裁がこれを取り消し、特別抗告審もこれを是認した。
⑷ 前川氏は、令和4年10月14日、再度の再審請求の申立てを行い、名古屋高等裁判所金沢支部は、上記のとおり、
令和6年10月23日、2度目の再審開始決定を言い渡した。この再審請求審では、裁判所の訴訟指揮の下、検察官から
新たな証拠287点が開示され、A氏ら関係者の証人尋問も実施された。このような経緯の下、裁判所は、「主要関係者の
一人であるAが、自らの刑事事件について有利な量刑を得るなどの自己の不当な利益を図るために、請求人が犯人であるとの
うその供述を行い、捜査に行き詰まった捜査機関において、他の主要関係者に対してA供述に基づく誘導等の不当な働きかけを行い、
他の主要関係者も迎合した結果、Aのうその供述に沿う主要関係者供述が形成された疑いが払拭できず、同供述は信用できない。」とし、
また、再審請求審で開示された新証拠によって、確定審当時の担当検察官が前川氏の無罪を裏付ける方向の重要な事実関係を
認識したにもかかわらず、それを明らかにしなかったことについて、「不利益な事実を隠そうとする不公正な意図があったことを推認
されても仕方がな」く、「公益を代表する検察官としてあるまじき、不誠実で罪深い不正の所為」であり、「適正手続確保の観点からして、
到底容認することはできない」として厳しく非難した。当該決定に対して、検察官は、同月28日、異議を申し立てないと表明したことで
再審開始決定は確定したものである。
3 当会は、袴田事件再審無罪判決後の本年9月26日及び10月8日、国に対し、再審請求手続における証拠開示の制度化、再審開始決定
に対する検察官の不服申立ての禁止、再審請求審における手続規定の整備について、再審法の改正に関する会長声明を発出したが、
再審法を巡る問題が袴田事件に特有の問題ではないこと、そして刑事司法における捜査機関の有する証拠の全面開示や、取調べの
全件全過程の録画の必要性といったえん罪防止のための手続整備が必要であることが明らかとなった。
4 よって、当会は、国に対し、あらためて再審法の改正を求めるとともに、捜査機関の有する証拠の全面開示といったえん罪防止のための
制度改革を強く求める次第である。
2024年(令和6年)11月18日
新潟県弁護士会
会長 中村 崇