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お知らせ

子どもの権利条約の推進を求める会長声明

1 2024(令和6)年、日本が1994年に子どもの権利条約を批准して30年目の年を迎えました。
 子どもの権利条約は、それまで「保護の客体」として扱われてきた子どもを「権利の主体」として
 認めるとともに、4つの一般原則(差別の禁止、子どもの最善の利益、生きる権利・育つ権利、意見を
 聴かれる権利)を指針としながら、子どもの権利の保障のための法律や政策の整備を締約国に求めるものです。
  1994(平成6)年に日本が子どもの権利条約を批准した当時、政府は、子どもの権利条約で定められる
 子どもの権利は、日本では十分に保障されているとして、条約を実施するための新しい法律や政策の
 整備・見直しをしませんでした。平成6年5月20日付け文部事務次官通知(以下、「平成6年文部事務次官
 通知」といいます。)において、政府は、子どもの権利条約を、「世界の多くの児童が、今日なお貧困、
 飢餓などの困難な状況に置かれている状況にかんがみ、世界的な観点から児童の人権の尊重、保護の推進を
 目指したもの」であるとし、「基本的人権の尊重を基本理念に掲げる日本国憲法、教育基本法(昭和22年
 3月31日法律第25号)並びに我が国が締約国となっている『経済的、社会的及び文化的権利に関する
 国際規約(昭和54年8月4日条約第6号)』及び『市民的及び政治的権利に関する国際規約(昭和54年
 8月4日条約第7号)』等と軌を一にするもの」であり、「本条約の発効により、教育関係について特に
 法令等の改正の必要はない」と説明しています。つまり、日本政府は、子どもを保護の客体・管理の対象とする
 古い価値観を変更しようとしませんでした。この平成6年文部事務次官通知は、発出から30年を経た現在も、
 変更も撤回もなされておらず、有効な通知として存在しています。
  子どもの権利条約の締約国が負っている子どもの権利実現義務の進捗状況を審査するために条約によって
 設置された独立機関である国連子どもの権利委員会は、条約を批准した国の状況を数年に1回審査し、
 締約国への是正勧告などを含む「総括所見」を出してきました。2019年の総括所見では、国連子どもの
 権利委員会が、日本に対し、子どもの意見が尊重されていないこと等を指摘して緊急の措置を講じるよう勧告し、
 子どもの権利基本法の制定や子どもの権利を守るための政府から独立した監視機関の設置を求めることを
 勧告しました。
  2023(令和5)年、日本は、「こども基本法」を施行し、こども家庭庁を設置し、さらにこども大綱を
 決定するに至りました。こども大綱には、「こどもや若者に関わる全ての施策において、こども・若者の視点や
 権利を主流化し、権利を基盤とした施策を推進する。」、「こどもの権利条約を誠実に遵守する。同条約に基づく
 児童の権利委員会からの総括所見における勧告や、必要に応じて一般的意見について十分に検討の上、適切に
 対応を検討するとともに、国内施策を進める。同条約に基づく権利の実現のためにとった措置及びこれらの権利の
 享受についてもたらされた進歩に関する報告を行うため、フォローアップを含めた必要な措置を適切に講ずる。」
 などが明記されました。日本は、子どもの権利条約批准から29年もの歳月を経てようやく基本法を制定するに
 至り、子どもの権利が保障される社会に向けた第一歩を踏み出したといえます。
  しかし、2025(令和7)年現在、日本の子どもたちの自殺者数・虐待件数・いじめ重大事態件数・不登校
 生徒数は、いずれも過去最多を更新しつづけています。子どもが「秘密にするよ」というおとなの言葉を信頼して
 話した内容が、子どもの了解なくおとなの間で共有された結果、子どもがおとなを信じられなくなるということも、
 日常的に発生しています。日本の子どもたちの権利は、今なお、家庭でも、学校でも、必ずしも保障されている
 とはいえない状況にあります。日本において、一人ひとりの子どもの権利が保障される社会をつくることが急務です。
2 当会は、日本政府に対し、日本国内における子どもの権利条約の一層の推進を求め、次の各事項を求めます。
 ⑴    平成6年文部事務次官通知の撤回
  現在も、政府は、平成6年文部事務次官通知の撤回を拒否し続けることにより、子ども大綱において求められる
 政府の対応とは矛盾する姿勢をとり続けています。このような政府の態度は、世界から見ても国民から見ても、
 日本が真に子どもの権利条約を推進するつもりがあるのかと疑問に思われても仕方がないものです。政府は、
 今すぐにでも、平成6年文部事務次官通知を撤回しなければなりません。
 ⑵    家事事件手続法における必要的意見聴取の対象年齢要件(15歳以上)の撤廃ないし見直し
  子どもの意見の尊重(子どもの権利条約12条)が保障されるためには、家事事件手続において子どもの意見を
 必ず聞かなければならない必要的意見聴取が15歳以上に限定されている家事事件手続法を是正することが必要です。
 ⑶    子どもが関連する問題に子どもが参加する機会の保障
  家庭、学校、代替的養護及び保健医療の現場、子どもに関わる司法手続、行政手続、地域コミュニティにおいて、
 子どもが意見を聞かれる権利を実現するような環境がつくられ、かつあらゆる子どもが関連する問題に関し全ての
 子どもが意味のある形でかつエンパワーされながら参加することができるような政策や機会の保障が実現することが必要です。
⑷    体系的な教育や研修を反復して受講する仕組みの構築
  子どもの権利が保障される社会を実現するための前提として、権利を有する子どものみならず、子どもの権利を保障する
 義務をもつおとなが、子どもの権利を学び、理解していなければなりません。特に、議員・裁判官・公務員・教員・保育士等
 子どもに関わる職業にある者が子どもの権利を理解していない場合、子どもの権利侵害が引き起こされるおそれがあります。
 そのため、これらの者が、子どもの権利条約の理念や基本原則、個々の権利についての考え方、おとなとしてすべき
 こと・してはならないこと等について、確実に理解できるよう、体系的な研修を反復して受講する仕組みが構築されることが
 求められます。
⑸    子どもの権利を守るための政府から独立した監視機関の設置
  子どもの権利侵害が発生した際には、子どもが安心して権利救済を求めることができる仕組みが必要です。そこで、国は、
 地方公共団体の子どもの相談救済機関は別途地方公共団体の子どもも権利相談機関と連携して子どもの権利救済にあたるべく、
 パリ原則に則った子どもの権利に関する政府から独立した人権監視機関を、早急に設置することが必要です。
3 当会の決意
  これまでも、当会は、子どもの権利の普及啓発や子どもの人権相談、家事事件における子どもの手続代理人、少年事件に
 おける付添人などの活動を通じて、子どもの権利が保障される社会の実現に向けた活動をしてきました。子どもの権利条約の
 批准から30年が経過した今、当会は、あらためて、子どもの権利条約が目指す子どもの権利が保障される社会を実現すべく
 尽力していくことを決意し、行動していきます。

                            2025(令和)7年3月27日
                            新潟県弁護士会会長 中 村   崇
                                    


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