安保法制の成立から10年を経過したいま、改めて同法の廃止と安保三文書の撤回を求める会長声明
2015年9月19日に集団的自衛権の行使等を容認する安全保障関連法(以下「安保法制」といいます。)が成立してから、
10年が経ちました。
安保法制は、以下の3つの点で、憲法が定める恒久平和主義に違反します。
①日本が攻撃されていないにもかかわらず武力行使を認める点
②他国の武力行使と一体化する「後方支援」を可能にする点
③自然的権利に基づく自己保存型の範囲を超える武器使用を認める点
また、憲法改正手続によらず、立法によって実質的に憲法を変更する点で、近代憲法の基本理念である立憲主義に反します。
当会は、法案審議の段階から、これらの問題点を、総会決議や会長声明で繰り返し指摘しました。圧倒的多数の憲法学者、
歴代の内閣法制局長官、元最高裁判所長官を含む最高裁判所判事経験者らも、安保法案の違憲性を指摘しました。
安保法案に対する疑問や不安、反対の声は、全国津々浦々に広がり、多くの団体や個人が、各地で集会やデモ、スタンディング
などに取り組みました。2015年8月には、国会前の大規模な抗議デモに10万人を超える市民が参加しました。当会も、
市民のみなさんと一緒に、一斉街頭宣伝や「PEACE PARADE」を実施しました。
しかし、高まり続ける反対の声を無視して、法案の採決が強行され、2015年9月19日、安保法制が成立しました。
当会は、同日、会長声明を発表して、恒久平和主義、立憲主義、民主主義に反する暴挙に抗議しました。この声明と同時に
発表された「おかしいだろ、これ。」との会長コメントは、大きな注目と強い共感を集めました。
政府はその後も、憲法違反の安保法制を前提に、恒久平和主義に反する施策を続けています。特に、2022年12月に、
安保三文書(国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画)の改定を閣議決定し、敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有を
決めたことは、重大です。敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有は憲法9条2項に、「敵基地攻撃」の実行は憲法9条1項に
違反します。また、これを閣議決定で決めたことは、憲法改正手続によらずに実質的に憲法9条を変更する点で立憲主義に反します。
政府は、質問主意書に対する答弁で、集団的自衛権の行使として「敵基地攻撃」を実施しうるとの見解を表明しています。つまり、
日本が武力攻撃を受けていなくとも相手国に対する武力攻撃が可能であるというのが、現在の政府の公式な見解ということです。
「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意」してつくられた憲法の恒久平和主義は、
極限まで空洞化してしまっています。
安保法制の成立から10年を経過した今、当会は、改めて、恒久平和主義と立憲主義を堅持する立場から、安保法制の廃止と、
安保三文書の撤回を求めます。また、今後も、市民のみなさんと一緒に、憲法の恒久平和主義の内実を豊かにするための取り組みを
積み重ねていく決意を表明します。
2025年(令和7年)9月29日
新潟県弁護士会
会長 今 井 慶 貴