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お知らせ

えん罪被害者の適正かつ迅速な救済のための再審法改正を求める総会決議

第1 決議の趣旨
   当会は、えん罪被害者の適正かつ迅速な救済という目的を実現するために、刑事訴訟法の再審規定の改正において、
  再審請求手続における証拠の全面開示を認め、再審開始決定に対する検察官の不服申立てを全面的に禁止することを、
  改めて強く求める。

第2 決議の理由
 1 再審法改正の必要性
   刑事司法において、えん罪は国家による最大の人権侵害である。
   再審制度は、一度確定した有罪判決を覆し、えん罪被害者の人権を回復するための唯一の制度である。
   しかし、現行の刑事訴訟法における再審規定はわずか19条という簡素な内容に留まっているため、
  具体的な手続の進行は個々の裁判官の裁量に委ねられ、救済の可否や速度に著しい不均衡が生じている。
   当会及び日本弁護士連合会は、これまで累次の会長声明や総会決議を通じて、この構造的欠陥を是正するための法改正を
  繰り返し強く求めてきた。

 2 再審法改正に関する近時の経過
  (1) 2024年3月、超党派の国会議員による「えん罪被害者のための再審法改正を早期に実現する議員連盟」
  (以下「議連」という。)が発足した。
  (2) 同年10月、袴田事件の再審無罪判決が確定した。
  (3) 2025年3月、法務大臣は、法制審議会に「近時の刑事再審手続をめぐる諸事情に鑑み、同手続が非常救済手続として
  適切に機能することを確保する観点から、再審請求審における検察官の保管する裁判所不提出記録の弁護人による閲覧及び
  謄写に関する規律、再審開始決定に対する不服申立てに関する規律、再審請求審における裁判官の除斥及び忌避に関する規律
  その他の刑事再審手続に関する規律の在り方について、御意見を賜りたい。」との諮問を行った。
  (4) 同年6月、議連は、第217回国会で、議員立法として、刑事再審に関する刑事訴訟法の一部を改正する
  法律案(以下「議連法案」という。)を提出した。議連法案は、①再審請求審における証拠の開示命令、②再審開始決定に
  対する検察官の不服申立ての禁止、③再審請求審等における裁判官の除斥及び忌避、④再審請求審における手続規定の整備を
  内容とするものであった(なお、同年5月1日現在の議連の加入者数は国会議員全体の過半数を超える386名)。
  (5) 同年8月、福井女子中学生殺害事件の再審無罪判決が確定した。

 3 法制審議会の答申内容の問題点
  2026年2月12日、法制審議会総会は、異例のスピード審理を経て、刑事法(再審関係)部会がとりまとめた諮問第129号に
 対する答申案(具体的内容は答申別添「要綱(骨子)」に記載)を採択し、法務大臣に答申した(なお、部会においては日弁連選出
 委員3名が反対し、総会においては会長を除く出席委員17名のうち4名が反対の意見を表明し、1名が棄権した。)。
  しかし、その内容は、えん罪被害者の救済を迅速かつ容易にするという法改正の目的に逆行し、これまでよりも救済を困難に
 しかねないという重大な問題点を含むものである。
 (1) 第1に、証拠開示制度が極めて不十分である。
  無罪につながる証拠が捜査機関の手元にのみ保管されていることは、近年の再審事件を見ても明らかであり、証拠の全面開示が不可欠である。
  しかし、要綱(骨子)は、証拠の提出命令を、裁判所が「再審の請求の理由に関連すると認められる証拠について、その関連性の程度その他の
 当該再審の請求についての裁判をするために提出を受けることの必要性の程度並びにその提出を受けた場合に生じるおそれのある弊害の内容及び
 程度を考慮し、相当と認めるとき」に限定している。これでは、弁護人は捜査機関が保管する膨大な証拠に容易にアクセスできず、無罪を
 証明するための手がかりさえ発見できない。
  さらに、開示された証拠の「目的外使用禁止」を定めている点も問題である。この規定が設けられれば、新証拠の獲得に向けた社会的な
 支援活動において開示証拠を共有することさえ「目的外使用」に当たるとの懸念が生じ、弁護活動や支援活動を萎縮させかねない。
 (2) 第2に、再審開始決定に対する検察官の不服申立てを存続させている。
  過去の多くの再審事件において、検察官は再審開始決定に対する不服申立てを行ってきた。その結果、袴田事件では、再審開始決定から再審無罪が
 確定するまで約10年間もかかった。また、福井女子中学生殺害事件の第1次再審請求では再審開始決定がなされたものの、検察官が自らの主張と
 矛盾する重要な証拠を隠匿したまま不服申立てを行った結果、再審開始決定が誤って取り消され、第2次再審請求により再審無罪が確定したのは
 1回目の再審開始決定から約13年後となった。こうした非人道的な実例があるにもかかわらず、要綱(骨子)は検察官の抗告権を無制限に維持している。
  再審開始決定はあくまで「裁判のやり直し」を決めるに過ぎず、再審公判(三審制)において、検察官は有罪の主張立証を行うことが
 できるのであるから、入口の段階で検察官の不服申立権を認める必要はない。
 (3) このほかにも、「再審の請求についての調査手続」の新設が盛り込まれた。
  これにより、裁判所が再審請求について調査した結果、「理由がないことが明らかである」と認めるときは、事実の取調べや証拠の提出命令を
 行うことができず、直ちに再審請求を棄却することが義務づけられる。
  過去の再審無罪事件を振り返れば、再審請求後の手続の中で新たに開示された証拠が「新証拠」となり、再審開始決定への突破口となった事例も多い。
  しかし、この調査手続が導入されれば、裁判所は証拠提出命令を行うことを法律上禁止されるため、再審請求人は無罪につながる証拠の開示を
 受けられないまま、一方的な書面審査のみによって速やかに請求を棄却される事態すら懸念される。

 4 結語
  議連法案は、えん罪被害者の適正かつ迅速な救済という原点に立ち、証拠(送致書類等目録を含む)の幅広い開示を制度化し、再審開始決定に
 対する検察官の不服申立てを全面的に禁止するものであった。
  議連法案は、2026年1月の衆議院の解散により一旦廃案となったが、その内容は、法制審議会の要綱(骨子)に比して、えん罪被害者の救済
 という人権保障の観点からは圧倒的に優れている。
  一方、法制審議会の要綱(骨子)では、「何のために再審法を改正するのか」という出発点が見失われており、まさしく本末転倒と言うほかない。
  よって、当会は、決議の趣旨のとおりの法改正を改めて強く求める。

 以上のとおり決議する。

                                         2026年(令和8年)2月27日
                                            新潟県弁護士会 臨時総会


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