生活保護基準引き下げの見直しを求める会長声明
2021年(令和3年)2月22日、大阪地方裁判所は、国が2013年(平成25年)8月から3回に分けて実施した生活保護基準の引下げは生存権を保障した憲法25条に反するなどとして、大阪府内の生活保護利用者らが保護費を減額した決定の取消しなどを求めた訴訟において、厚生労働大臣の判断には「最低限度の生活の具体化に係る判断の過程及び手続に過誤、欠落があり、裁量権の範囲の逸脱または濫用がある」として、保護費の減額決定を取り消す判決を言い渡した。
本判決は、厚生労働大臣が生活保護基準を引き下げた判断において、①特異な物価上昇が起こった2008年(平成20年)からの物価の下落を考慮したこと、②テレビ・ビデオレコーダー・パソコンなど被保護世帯での支出割合が相当低い教養娯楽用耐久材の物価の大幅下落が大きく反映された結果としてのCPIの下落率をデフレ調整の物価下落率として採用したことが、いずれも統計などの客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性を欠いていると指摘した。本判決は、2013年(平成25年)8月以降の生活保護費引下げに合理性がないことを的確に指摘したものであり、高く評価すべきものである。
折しも、運用面においては、昨年以来、新型コロナウィルス感染症流行による市民生活の困窮の深刻化の中で、セーフティネットである生活保護制度の重要性が見直され、扶養照会に関する通知の見直しなど制度を利用しやすくする方策が打ち出されている一方で、最近の新聞報道においては、新潟県内においても、消極的な行政の姿勢などにより、生活保護の申請のハードルが高いことが指摘されている。今必要なことは、憲法25条の「健康で文化的な最低限度の生活」を具体化する生活保護制度を改善・充実させ、必要な人が使いやすくすることである。
当会は、保護基準の引下げに強く反対してきた(2012年(平成24)年10月17日「生活保護基準の引下げに強く反対する意見書」、2018年(平成30)年1月30日「生活保護基準の引下げに反対する声明」)。また、2013(平成25)年度以降日本弁護士連合会の「全国一斉生活保護ホットライン」に参加するとともに、会長声明の公表、シンポジウムや市民集会の開催など、生活保護制度の改善と充実のための相談・提言活動を行ってきた。
当会は、国に対し、本判決をふまえて早急に現在の生活保護基準を見直し、少なくとも2013年(平成25年)8月以前の生活保護基準に戻すことを求める。
また、本判決を機に、生活保護制度の基本的人権の保障としての意義を再確認するとともに、今後も相談・提言活動を積極的に行っていくことを、改めて表明する。
2021年 (令和3年)3月9日
新潟県弁護士会
会長 水内 基成