特定商取引法及び特定商品預託法の書面交付義務の電子化に反対する会長声明
2021年(令和3年)3月9日
新潟県弁護士会 会長 水内基成
第1 声明の趣旨
当会は、特定商取引に関する法律(以下「特商法」という。)及び特定商品等の預託等取引契約に関する法律(以下「預託法」という。)が規定する契約書面等の交付義務を緩和し、電子交付することを可能にする法改正に反対する。
第2 声明の理由
1 政府が示している方針
政府は、現行の特商法及び預託法において事業者が消費者に対して書面での交付を義務づけている概要書面及び契約書面(以下、「契約書面等」という)について、消費者の承諾を得た場合には電子交付を可能にするよう特商法及び預託法を改正する方針を示している(2021年(令和3年)1月14日開催の消費者委員会)。
2 政府の方針の問題点
このような法改正には以下のような問題がある。
⑴ 特商法は、不意打ち的勧誘(訪問販売等)や利益誘引勧誘(マルチ商法等)など、消費者が契約内容を冷静に確認せずに契約締結に至るおそれが高い取引類型について、契約書面等の交付を義務づけることにより、消費者に契約内容等の情報を提供し、クーリング・オフの権利を告知することで、消費者の保護を図っているものである。
しかし、スマートフォン等の小さな画面では、スクロールや拡大の操作で探索しなければ必要な情報を確認することができないし、そもそも、現行法で義務づけられている8ポイント以上の活字の大きさをスマートフォンの画面で確保することは困難である。
⑵ また、高齢者や若年者が締結してしまった不当な契約について、契約書面等を家族や見守り活動者が発見することにより、消費者被害が発覚することがあるが、電子交付においては、第三者による被害回復が困難になるおそれがある。
⑶ そもそも、訪問販売等の対面型の取引においては、事業者がその場で契約書面を作成し交付の上、説明すべきであり、電子交付を認める必要性がない。
⑷ 預託法における書面交付義務についても、商品の預託に伴い財産上の利益を提供することを約する契約類型において、契約書面等の交付を通じて預託利益を生み出す収益事業の実現可能性を消費者に冷静に検討させることは消費者保護を図るために重要であるところ、安易に電子交付を認めることは消費者保護の機能を没却させることになりかねない。
⑸ なお、消費者庁は、消費者の承諾を得た場合に限って電子交付を認める方針を掲げている。しかし、書面交付の趣旨は、契約内容やクーリング・オフ等の権利を十分に認識していない消費者に対して、積極的にこれを伝達する措置であるから、電子交付を選択することによるリスクを十分に理解していない消費者から承諾を得たとしても、その意義には疑問があり、このような要件で電子交付を認めることは、消費者保護の制度趣旨を無視するものである。預託法についても同様である。
3 よって、当会は、契約書面等の電子化を認める特商法及び預託法の改正に反対する。
以上