新潟県内のすべての市町村で犯罪被害者等の支援に特化した条例が制定されることを求める会長声明
1 犯罪被害者等基本法(平成16年12月8日法律第161号)では,市町村を含む地方公共団体に対して,犯罪被害者等(犯罪被害者の方及びそのご遺族・ご家族をいいます。)の支援に関し,その地域の状況に応じた施策を策定し,実施する責務を課しています。
2 これを受けて,このほど新潟県では,新潟県犯罪被害者等支援条例(令和2年12月25日新潟県条例第48号)が制定され,本年4月1日に施行されました。
県は,同条例に基づいて,犯罪被害に遭ったご遺族や重傷病を負った被害者の方を対象として,市町村が見舞金を支給した場合,その一部を補助する事業を行なうこととなりました。これにより財政規模の小さな市町村でも県の補助が見込めることによって見舞金支給制度を設けやすくなり,かつ,県による一部補助制度を設けることによって市町村の見舞金支給事業の実施を促し,ひいてはその他の犯罪被害者等の支援事業を開始することにつながることになります。もっとも,この県の見舞金の一部補助事業は,市町村からの犯罪被害者等への見舞金の支給がなければ実施されません。犯罪被害者等の居住市町村が異なるからといって,支給の有無に差が生ずることがあってはなりません。そのため,県内のすべての市町村において,是非この見舞金支給事業を行なっていただくよう求めます。
3 また,各市町村に求められているのは,見舞金の支給だけにとどまりません。
地域の住民にとって最も身近な地方公共団体である市町村には,その地域に住む犯罪被害者等に寄り添い,よりきめ細やかで,継続した支援がなされることが強く期待されています。
例えば,自宅で性被害に遭って自宅で生活することが困難になった被害者の方に公営住宅への優先入居を認めたり転居費用を補助することや,重大犯罪の被害のために日常の家事等がままならなくなった方にホームヘルパーを派遣し費用を援助することなど,主体が地元の市町村であるからこそ可能な支援が多くあります。犯罪被害者等の支援のためには,市町村のこうした事業に期待することは大きなものがあります。
そこで,各市町村におかれましては,見舞金の支給だけでなく,上記のような支援も含めた実効性のある総合的な支援が行なわれるようにお願いしたいと存じます。
4 そして,このような総合的な支援を行うためには,要綱を定めて施策を行うだけではなく,支援の根拠となる犯罪被害者等の支援に特化した条例を制定することが是非とも必要です。
犯罪被害者等の支援に特化した条例を制定することによって,犯罪被害に遭い困っている地域の方々を,その地域全体で支えるという意思を明らかにしていただくことが重要なのです。
また,条例が制定されることによって地方公共団体の責務や支援内容,犯罪被害者等の権利が明確化され,計画的で継続的な支援活動が可能となり,また,支援に当たる行政職員や地域住民の意識向上にもつながるといったメリットがあるとも指摘されています。
5 こうした条例の重要性は広く認識されてきており,全国的に制定・施行される件数は増えつつあります。警察庁の令和2年版犯罪被害者白書によれば,令和2年4月1日現在,21都道府県,7政令指定都市,326市区町村において条例が制定されており,現在,さらに,複数の県や市区町村において条例の制定が検討されているとのことです。
しかし,県内の市町村では,まだこうした条例を制定している例は一例もありません。犯罪被害者等に対して充実した支援が継続的になされることは新潟県内のどこの市町村に住んでいても等しく必要なことは疑いようがありません。
6 以上から,当会は,新潟県内のすべての市町村に対して,犯罪被害者等の支援に特化した条例を制定し,犯罪被害者等に対する支援事業を充実されるよう求めるものです。
令和3年4月13日
新潟県弁護士会
会長 若 槻 良 宏