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お知らせ

重要土地等調査規制法案の廃案を求める会長声明

 本年6月16日に会期末を迎える通常国会において、「 重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況
の調査及び利用の規制等に関する法律案 」(いわゆる重要土地等調査規制法案。以下「本法案」といいます。)が
本年6月1日の衆議院本会議で可決され、現在、参議院で審議されています。
 本法案は、内閣総理大臣 が 、「重要施設」の敷地の周囲おおむね千メートル の 区域 等を「注視区域」、「特別
注視区域」 として指定し、これらの 区域内にある土地及び建物(以下「土地等」といいます。)の利用 状況を調査し、
土地等の利用者が当該土地等を重要施設等の機能を阻害する行為の用に供し、又は供する明らかなおそれがあると
認めたときは、土地等の利用者に対し、利用中止等の勧告や命令を出すとともに、調査や命令に応じない場合に刑事罰
を科すものです。
 しかし、本法案は次に述べるとおり国民の 基本的人権を脅かす重大な問題をはらんでいます。

1 刑事罰の対象となる行為が不明確で広範となるおそれがあること
 本法案は、①注視区域内にある土地等の利用者に対する命令違反、②特別注視区域内における土地等に関する所有権
等の移転等の届出義務違反、③土地等利用状況調査のための報告懈怠や虚偽報告等に刑事罰を科すとしています
(本法案25条ないし28条、8条、9条、13条)。
 しかし、刑事罰の対象となる行為の概念や定義がいずれも極めて曖昧です。
 まず、内閣総理大臣が指定する「注視区域」は、「重要施設」の敷地の周囲「おおむね千メートル」という広範囲に
なりうるものです(本法案5条1項)。そもそも、「重要施設」には政令で定める「生活関連施設」も含むとされている
ことから(本法案2条2項3号)、恣意的な解釈で電気、ガス、水道、交通、情報通信、金融、医療といった重要な
インフラは何でも広く含まれることとされかねません。これら「重要施設」の敷地の周囲「おおむね千メートル」の
注視区域内の土地等の利用者が当該土地等を「重要施設」の「機能を阻害する行為」に供し、又は「供する明らかなおそれ
があると認めるとき」という曖昧な要件の下に、内閣総理大臣の勧告や命令の対象となります(本法案9条)。
 次に、内閣総理大臣は、「注視区域」に係る「重要施設」が「特定重要施設」(重要施設のうち、その施設機能が特に
重要なもの又はその施設機能を阻害することが容易であるものであって、他の重要施設によるその施設機能の代替が困難で
あるものをいう。)である場合には、「特別注視区域」として指定することができますが(本法案12条1項)、施設機能が
「特に重要なもの」、施設機能を「阻害することが容易であるもの」の意味するところも不明確です。
 さらに、土地等利用状況調査の対象者は注視区域内の土地等の利用者のみならず「その他の関係者」にも及ぶ上、
対象者のどのような情報の提供を求めるのかも本法案では明記されておらず政令に委ねられています(本法案7条、8条)。
 このような広範かつ曖昧な要件の下になされる命令や報告の徴収等に服することを刑罰をもって国民に強いることは、
国民の自由を萎縮させるものであり、刑罰の対象は明確でなければならないという罪刑法定主義(日本国憲法31条、
市民的及び政治的権利に関する国際規約(自由権規約)9条)に反するおそれがあります。

2 国民の基本的人権を侵害する危険性があること
 本法案では、内閣総理大臣が地方公共団体の長等に対し、注視区域内の土地等の利用者等に関する情報提供を求める
ことができるとされていますが、その範囲は政令に委ねられています(本法案7条)。そのため、政府は、注視区域内の
土地等の利用者等の思想・良心や表現行為に関わる情報も含めて、広範な個人情報を、本人の知らないうちに取得すること
が可能となります。具体的には、例えば、沖縄県の辺野古新基地の建設地や全国の原発関連施設の周辺での市民活動に
対する監視に利用される懸念もあります。国民の思想・良心の自由、表現の自由、プライバシー権などを侵害する危険性が
ある法案だといわざるをえません。
 また、特別注視区域内の一定の土地等の売買等契約について、内閣総理大臣への届出を義務づけ、違反に刑罰を科すと
している点(本法案13条、26条)も、過度の規制による財産権侵害につながる危険があります。

3 立法事実(法律制定の必要性や正当性を裏づける事実)がないこと
 政府は、本法案の目的は自衛隊や米軍基地等の周辺の土地を外国資本が取得してその機能を阻害すること等の防止であると
説明しています。しかし、これまでにそのような土地取得等により重要施設の機能が阻害された事実がないことは政府自身も
認めており、そもそも立法事実の存在に疑問があります。

 よって、当会は、基本的人権の擁護を使命とする弁護士が構成する団体として、本法案に反対し、政府及び国会に対し
本法案の廃案を求めます。

                                        2021年(令和3年)6月8日
                                           新潟県弁護士会
                                           会長 若 槻  良 宏  


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