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お知らせ

「医師の働き方改革に関する検討会報告書」についての意見書

          意  見 の  趣  旨
 医師の健康を確保する観点から、
1 厚生労働省労働基準局長通達「脳・心臓疾患の労災認定基準について」などに示されている時間外労働時間と疾病発症の関連性や過労死遺族などの意見を踏まえ、地域医療確保暫定特例水準及び集中的技能向上水準のうち臨時的な必要がある場合の時間外労働時間の規制のあり方について慎重な検討を行うこと、
2 地域医療確保暫定特例水準の要件該当性判断について、労働組合など労働者代表や労働事件に精通した弁護士が関与する仕組みとすること、
3 都道府県や都道府県医療審議会において、医療機関の診療科毎に地域医療確保暫定特例水準該当性の協議、特定を行うこととする仕組みとすること、
4 地域医療確保暫定特例水準について、都道府県等において医療機関等が要
件を満たすと判断する場合でも、さらに当該医療機関等における時間外労働な
どの実態を踏まえ、医師の健康確保を図るために年1860時間を下回る上限
を定めることが必要な場合には、年1860時間を下回る上限を定めるとの制
度とすること、
5 集中的技能向上水準(C-1)について、病院、学会、専門研修プログラム毎の想定最大時間数を踏まえ、時間外労働の上限時間数を再検討すること、
を求める。

           意  見  の  理  由
第1 報告書の内容
 「医師の働き方改革に関する検討会」は、2019年(平成31年)3月28日、「医師の働き方改革に関する検討会報告書」(以下、「報告書」という)を公表した。
 同報告書は、医師の労働時間短縮・健康確保と必要な医療の確保の両立という観点から、医師の時間外労働規制の具体的な在り方などを検討した成果を取りまとめたものである。今後は労働政策審議会において立法化に向けた議論がなされることになることが想定される。
 同報告書は、医師の時間外労働規制について、診療従事勤務医に2024年度以降適用される水準(A水準)、地域での医療提供体制を確保するための経過措置としての暫定的な特例水準(地域医療確保暫定特例水準、B水準)、一定の期間集中的に技能向上のための診療を必要とする医師向けの水準(集中的技能向上水準、C水準)導入を提言している。
 特に、地域医療確保暫定特例水準及び集中的技能向上水準については、臨時的な必要がある場合の時間外労働時間上限を年1860時間としており、それが厚生労働省労働基準局長通達「脳・心臓疾患の労災認定基準について」で発症との関連性が強いとされる月80から100時間の時間外労働時間を大幅に上回るものであり、過労死遺族や検討会委員からも懸念が表明されたところである。
 今後の審議においては、このような懸念について十分配慮がなされるべきものであるが、上限時間の水準は別としても、報告書の内容には医師の健康確保の観点から不十分と言わざるを得ない点がみられる。
 以下、具体的に論ずる。
 
第2 地域医療確保暫定特例水準について
 1 地域医療確保暫定特例水準の要件該当性判断手続きについて
報告書において、地域医療確保暫定特例水準については、「地域医療の観点から必須とされる機能を果たすために、やむなく長時間労働となる医療機関であること」(①要件)、「当該医療機関に(B)水準を適用することが地域の医療提供体制の構築方針と整合的であること」(②要件)、「医師の労働時間短縮に向けた対応がとられていること」(③要件)が要件とされている。そして、②要件、③要件については、都道府県医療審議会等における協議の状況などをもとに都道府県により確認されることとされている。
   ところで、都道府県医療審議会については、医療法施行令5条の17第1項により「医師、薬剤師、医療を受ける立場にある者及び学術経験のある者のうちから、都道府県知事が任命する」とされているところである。そして、実際の構成においては、必ずしも労働者を代表する者や労働法に精通した者が構成員となっているものとはいえない。
 今後、都道府県医療審議会において、労働時間短縮に向けた対応がとられているかどうかについても審議されることになるのであれば、労働組合など労働者を代表する者、労働事件に精通した弁護士などを「医療を受ける立場にある者及び学術経験のある者」として選任し、労働時間短縮に向けた対応について十分なチェックをなしうるようにすることが必要である。
 また、報告書では、都道府県医療審議会において、地域医療確保暫定特例水準該当性を医療機関単位で協議し、都道府県においても医療機関単位で特定をすることとされている。しかし、報告書添付資料によると、週勤務時間が地域医療確保暫定特例水準を超える医師の割合は、産婦人科では20・5パーセント、放射線科では2・6パーセントと、診療科によって大きく異なることが明らかである。そうであれば、医療審議会、都道府県においては、医療機関単位のみならず、各医療機関の診療科毎に地域医療確保暫定特例水準該当性の協議、特定を行うこととすべきである。
2 多層的な規制の実施について
   地域医療確保暫定特例水準において、臨時的な必要がある場合の1年あたりの延長することができる時間数の上限については、医師の勤務時間の分布において、まずは上位1割に該当する医師の労働時間を確実に短縮するという観点から1860時間とされているとのことである。これは、病院勤務医の週勤務時間の区分別割合に関する統計からして、分布の上位10パーセントが年1904時間以上の時間外労働をしているとの前提に立っている。
   しかし、例えば、報告書添付資料からは11パーセント以上存在するとされる年時間外労働1440時間から1920時間の医師について、地域医療確保暫定特例水準を適用し、年時間外労働時間の上限が1860時間とされた場合、実態より緩やかな労働時間規制となり、医師の健康確保という規制の趣旨が果たされないこととなる。
   よって、都道府県医療審議会等において、地域医療確保暫定特例水準の要件を満たすと判断する場合でも、さらに当該医療機関等における時間外労働などの実態を踏まえ、医師の健康確保を図るために年1860時間を下回る上限を定めることが必要な場合には、年1860時間を下回る上限を定めるとの制度とすべきである。

第3 集中的技能向上水準について
 報告書は、集中的技能向上水準について、「時間外労働の上限設定に当たっては、それぞれの目的に応じて何時間の時間外労働があれば必要十分であるかを考慮する必要があるが、我が国において時間外労働とC-1、2の業務の関係性を検証したエビデンスは現在のところ存在しない」などとして、地域医療確保暫定特例水準と同様の上限を定めるものとしている。
 しかし、報告書は、「全ての臨床病院ごとの臨床研修プログラム、各学会及び日本専門医機構の認定する専門研修プログラム/カリキュラムにおいて、適正な労務管理と研修の効率化を前提として、各研修における時間外労働の想定最大時間数(直近の実績)を明示する」としているのである。そうであれば、少なくとも研修医(C-1)については、各学会などの明示する想定最大時間数をもとに時間外労働の上限時間数を設定すべきものであり、年1860時間の時間外労働の上限については再検討をすべきである。
 
第4 結論
新潟県でも医師不足などを背景に医師の過重労働が発生し、実際に支障も生じているところである。当会としては、医師の健康確保のみならず、医療安全確保の観点からも、医師の過重労働解消は重要課題であると認識している。
そのため、第1から第3で述べたところを踏まえ、医師の時間外労働規制に関し、
1 厚生労働省労働基準局長通達「脳・心臓疾患の労災認定基準について」などに示されている時間外労働時間と疾病発症の関連性や過労死遺族などの意見を踏まえ、地域医療確保暫定特例水準及び集中的技能向上水準のうち臨時的な必要がある場合の時間外労働時間の規制のあり方について慎重な検討を行うこと、
2 地域医療確保暫定特例水準の要件該当性判断について、労働組合など労働者代表や労働事件に精通した弁護士が関与する仕組みとすること、
3 都道府県や都道府県医療審議会において、医療機関の診療科毎に地域医療確保暫定特例水準該当性の協議、特定を行うこととする仕組みとすること、
4 地域医療確保暫定特例水準について、都道府県等において、医療機関等が要
件を満たすと判断する場合でも、さらに当該医療機関等における時間外労働な
どの実態を踏まえ、医師の健康確保を図るために年1860時間を下回る上限
を定めることが必要な場合には、年1860時間を下回る上限を定めるとの制
度とすること、
5 集中的技能向上水準(C-1)について、病院、学会、専門研修プログラム毎の想定最大時間数を踏まえ、時間外労働の上限時間数を再検討すること、
を求める。
2019年(令和元年)5月20日
新潟県弁護士会
会長 齋 藤   裕


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