学校再開についての指針を踏まえ、各教育委員会において教育を受ける権利の保障を十分踏まえた判断をすることを求める会長談話
令和2年3月24日、文部科学省は、学校再開に関する指針を明らかにした。
今後、各自治体において学校の再開について本格的に検討されることと思われる。また、状況によっては再度休校の判断をすることもありうるところである。
その際、各教育委員会においては、適宜専門家の意見を聴取するなどした上、学校を再開することで生ずる公衆衛生的な影響に関する科学的知見や子どもの教育を受ける権利などを慎重に考慮し、再開の是非を決定していただきたい。
なお、新潟県内において、自治体による休校決定が、教育委員会の審議を経ず、かつ、教育委員会への報告もなされないという不適法な手続きによりなされたケースもみられるところである。
そもそも、休校(学校の臨時休業)は、学校保健安全法20条に基づくものであり、学校の設置者が行うこととなる。
地方教育行政の組織及び運営に関する法律30条は、地方自治体が学校を設置しうるとしている。ここで注意すべきは、設置者は首長ではないということである。そして、同法21条は、学校の設置、管理に関する事柄を教育委員会の権限としている。
よって、教育委員会が、公立学校の設置・管理者としての権限行使を行うことになり、学校保健安全法20条による休校判断も教育委員会が行うことになる。
教育委員会が公立学校の設置者としての権限を行使することは、平成26年5月14日の衆議院文部科学委員会において、文部科学大臣が明確に答弁しているところでもある。
裁判例においても、教育委員会が公立学校の設置者としての権限責任を負うことは、これまで特段争われてきていない(例えば、東日本大震災時に公立学校生徒が津波の犠牲になった事件に関する仙台高裁平成30年4月26日判決は、「前提となる事実」において、「平成7年1月17日の阪神・淡路大震災の発生や平成13年6月8日の大阪教育大学附属池田小学校での児童・教員殺傷事件の発生など,学校という公共施設に通う児童生徒の安全を取り巻く状況は緊迫度を増し,施設建物を建築して児童生徒をそこに集めれば児童生徒の安全が確保されるというような生易しい社会情勢ではないという認識が国民全体に浸透してきた。そこに,学校保健安全法を改正し,法律の明文をもって,学校安全に関する地域の実情や児童生徒の実態を踏まえつつ,各学校において共通して取り組まれるべき事項について規定を整備するとともに,学校の設置者の責務を定める等の措置を講ずることを規定する必要性が生まれたということができる(乙59・1枚目)。したがって,上記改正によって新設された同法26条ないし29条は,地方公共団体が設置する学校に関していえば,教育委員会,その運営主体である学校及びその運営責任者である校長に対し,公教育制度を円滑に運営するための根源的義務を明文化したものと解することができる」と述べているところであり、学校保健安全法上、教育委員会が公立学校の設置者としての権限行使をするものであることを当然の前提としている)。
この点、地方教育行政の組織及び運営に関する法律25条により、教育委員会の権限を教育長に委任することは可能である。
しかし、例えば、新潟市教育長の事務の委任等に関する規則2条1項は、「特に重要又は異例に属する事務で,委員会の議を経る必要があると認められる事項」について、教育委員会は教育長に委任をなしえないとしている。大方の自治体において同様の規則があるが、新型コロナウイルス感染対策としての一斉休校については、極めて異例な事態であり、教育の政治的中立性と教育行政の安定をはかるという教育委員会制度の趣旨からすれば、教育長に委任をなしえないと解釈すべきである。
仮に、教育長に委任をなしうるとしても、休校の決定について教育委員会への報告は必須である。例えば、新潟市教育長の事務の委任等に関する規則2条1項は、「教育長は,前項の規定により委任された事務で重要若しくは異例に属すると認める事項又は委員会から求められた事項については,その事務の執行及び管理の状況を,遅滞なく,委員会に報告しなければならない。」としているところであるが、これも大方の自治体において同様の規定が設けられているところである。よって、休校の決定について教育委員会の会議に報告し、教育委員の意見を聞くことは必要である。
学校の休校に関する判断が、子どもの教育を受ける権利という重大な権利に関わることから、各自治体においては休校や学校再開について関係法令を遵守し、教育委員会の審議を経るか、少なくとも教育委員会に報告を行い、その意見を聞くべきである。 以上
2020年3月24日
新潟県弁護士会
会長 齋 藤 裕