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お知らせ

緊急事態時に衆議院議員の任期延長を認める憲法改正をすることに反対する会長声明

1 現在、衆議院憲法審査会において、大規模災害や戦争等の緊急事態時に国会の権能を維持するために、衆議院議員の任期を延長する必要があるとして、
 憲法改正に向けた論点整理がなされています。しかし、以下に述べるとおり、緊急事態時においても国会の権能は維持し得ること、緊急事態時における
 対応は事前の備えが重要であること、そして衆議院議員の任期延長は国民の選挙の機会を縮小させるものであることから、衆議院議員の任期延長を認め
 る憲法改正に反対します。
2⑴ 緊急事態時においても国会の権能は維持し得ること
   憲法は、衆議院議員の任期を4年とし(憲法45条)、参議院議員の任期は6年として3年ごとに議員の半数を改選すると定めています(同46条)。
  現在、衆議院憲法審査会では、衆議院が解散もしくは任期満了時に大規模災害や戦争等のために選挙が不実施となれば議員が不在となることを問題と
  しています。この点、参議院は3年ごとに半数が改選されるため国会議員が「不在」となることはありません。そして、衆議院解散時には、緊急の必要が
  あるときには緊急集会(憲法54条2項)により対応が可能であり、この緊急集会において採られた措置については、衆議院の関与の機会も保障されて
  います(憲法54条3項)。なお、任期満了による解散総選挙は日本国憲法制定以後1度しか例はありませんが、仮に任期満了による総選挙が緊急事態
  によって実施できないという例外的な場合にあっても、繰延投票(公職選挙法57条)によって可及的速やかに選挙を実施し、衆議院議員不在の状況を
  可及的速やかに回復し、国会(特別会)を召集することで対応することが国民主権の原理から相当であるといえます。よって、緊急事態時においても国
  会の権能は維持し得るものであることから、憲法改正によって対応する必要はありません。
 ⑵ 緊急事態等を理由とする任期延長の議論には慎重であるべきこと
   衆議院議員の任期延長の議論において、緊急事態への対応の必要性が挙げられますが、緊急事態対応の大原則は「準備していないことはできない」と
  いうのが被災地としての教訓です。多くの災害時の対応で問題があったとすれば、そのほとんどは、法律が整備されているにもかかわらず充分な準備をし
  ていなかったところに問題があります。現在の法律でも、内閣総理大臣は、混乱を防ぐために必要な指示をすることができ(災害対策基本法、大規模地
  震対策特別措置法)、防衛大臣は自衛隊を派遣できます(自衛隊法)。都道府県知事や市町村長も様々なことが命令できます(災害救助法、災害対策基
  本法)。緊急事態時に衆議院議員の任期を延長することで、緊急時の効果的な対応ができるとは考え難く、むしろ国民主権や民主主義を後退させかねな
  い内容が含まれることからすれば、緊急事態等を理由とする衆議院議員の任期延長の議論には慎重であるべきです。
 ⑶ 選挙の機会は十分に保障されるべきこと
   憲法は、公務員の選定罷免権を国民固有の権利であると規定し(憲法15条1項)、成年者による普通選挙を保障し(同条3項)、さらに、国会の両
  議院について「全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する」(同43条1項)とし、主権者である国民が国会議員を自ら選択する機会を保障し
  ています。そして、緊急事態の際には、事前に想定していなかった政策実施の必要が生じるとすれば、その時点であらためて民意を問う必要性が高いと
  いえます。したがって、緊急事態の際には、国民の選挙の機会を縮小させることになる憲法改正による任期の延長ではなく、国民の選挙の機会を実質的
  に保障する観点からの法改正によって対応すべきです。具体的には、災害時等の場合の選挙の実施については、平時から選挙人名簿のバックアップを取
  ることや、選挙自体の延期を一定の要件下で認める制度を取ること、また科学技術を活用した時代に即した投票管理を制度化することなど、緊急事態時
  においても国民の選挙の機会を実質的に保障する観点からの法改正によって対応できるよう検討がなされるべきです。
 3 まとめ
   憲法改正によって衆議院議員の任期延長をしなくとも国会の権能の維持は可能であること、衆議院議員の任期延長は国民の選挙の機会を縮小させる
  こと、そして緊急事態に備えた多様な選挙制度の整備を行い、その準備のための法改正に努めることが肝要であり、憲法改正によって衆議院議員の任期
  延長を行うことは、国民主権の観点からも相当ではありません。よって、当会は、大規模災害や戦争等の緊急事態時において衆議院議員の任期延長を認
  める憲法改正をすることに反対します。
                                                               以上

                                                2023(令和5)年3月29日
                                                     新潟県弁護士会
                                                      会長 齋 藤 貴 介


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