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お知らせ

最低賃金額の大幅な引上げと全国一律最低賃金制度及び中小零細企業への実効的な支援等の実施を求める会長声明

 新潟地方最低賃金審議会は、近いうちに、中央最低賃金審議会の厚生労働大臣への答申を踏まえ、
本県の最低賃金改定額を新潟労働局長に答申する。
 最低賃金制度の目的は、賃金の低廉な労働者について、賃金の最低額を保障し、労働条件の改善を
図ることにあるから、最低賃金の額は、労働者が人間らしく、健康で文化的な生活を自ら維持してい
くに足りるものでなければならない。
 現在、新潟県の最低賃金は時給890円である。しかし、時給890円という水準は、1日8時間、
週40時間働いたとしても、月収約15万4000円、年収約185万円にしかならず、この金額で
は、到底、健康で文化的な生活を営むのは困難である。なお、国は、2025年度をめどに最低賃金
を全国平均で時給1000円以上を目指す方針を示しているが、仮に時給1000円であったとして
も、年収約208万円であり、ワーキングプアと呼ばれる水準(200万円)をわずかに超える程度
にしかならない。また、昨今、食料品や光熱費など生活関連品の価格が上昇を続けており実質賃金は
低下している。
 このような状況下において、労働者の生活を守るためには、最低賃金の大幅な引上げが必要である。
 日本の最低賃金は国際的に見ても低位であり、フランス、ドイツ、イギリス、韓国等の多くの国で、
コロナ禍で経済が停滞する状況下においても、最低賃金の大幅引上げが実現した。これらの国々の多
くは、全国一律の最低賃金制度を実施している。
 他方、わが国においては、最低賃金の地域間格差が依然として大きいことも重大な問題である。2
022年の最低賃金は、最も高い東京都で時給1072円であるのに対し、最も低い10県は時給8
53円であり、219円の開きがある。新潟県の最低賃金も、東京都に比べて182円低く、全国平
均(961円)と比べても71円低くなっている。最近の調査によれば、地域別最低賃金を決定する
際の考慮要素とされる労働者の最低生計費が、都市部と地方の間で、ほとんど差がないことが明らか
になっている。そもそも、最低賃金は、労働者が「健康で文化的な最低限度の生活」を営むために必
要な最低生計費を下回ることは許されない。労働者の最低生計費に地域間格差がほとんど存在しない
以上、全国一律最低賃金制度を実現すべきである。
 最低賃金の地域間格差は、地方から都市部への人材流出の一因ともなっており、働く世代の減少で
深刻化している地方の人手不足に追い打ちをかけるなど、切実な課題である。
 また、最低賃金の引上げには、賃金全体の引上げを牽引し、市民の消費が活発となり、中小企業の
売上の増加につながり、地域経済を活性化させる効果も大きい。
 この点に関し、厚生労働省の中央最低賃金審議会に設置された「目安制度の在り方に関する全員協
議会」が本年4月6日にまとめた報告では、現行のAないしDの4段階の目安区分を3段階とするこ
とが提案されている。しかし、これではCランクの引上額を、Aランクの引上額より大幅に上回るも
のとするなど抜本的な方策でも採られない限り、地域間格差の迅速な解消は望めない。中央最低賃金
審議会は、現行の目安制度が地域間格差を解消できなくなっていることを直視し、目安制度に代わる
抜本的改正策として、最低賃金法の改正を含む全国一律制実現に向けた提言をなすべきである。
 最低賃金の引上げは、前述のとおり、労働者だけでなく中小企業に対するメリットも大きい一方、
単なる最低賃金の引上げは、経営体力の乏しい企業の事業継続に重大な支障を生じさせることになる。
したがって、最低賃金の引上げとともに、企業に対する十分な支援策を講じる必要がある。中小企業
を支援する制度としては、国の「業務改善助成金」がある。この制度は、中小企業が設備投資に要し
た費用に一定の助成率を乗じた金額と助成上限額とを比較し、いずれか安い金額を助成するものであ
り、事業内最低賃金の引き上げ額やこれによって賃金が引き上がる労働者数に応じ上限額が増額され
る仕組みとなっている。助成金額の増額、最低賃金の引き上げ額を直接補助の対象とすることを含む
助成対象経費の拡大など、この制度のさらなる拡充が求められる。さらに、経営体力の乏しい企業に
対する社会保険料の事業主負担部分の減免などの財政的支援のほか、原材料費等の価格上昇を取引に
正しく反映させることを可能にするよう環境を整備することも有効であると考えられる。
 よって、当会は、国に対して、法改正による全国一律最低賃金制度の導入及び中小企業・小規模零
細事業者に対するさらなる実効的な支援策等の実施を求めるとともに、新潟地方最低賃金審議会に対
して、新潟県の地域別最低賃金の大幅な引上げを答申すべきことを求める。

                          2023年(令和5年)6月27日
                            新潟県県弁護士会
                               会長 福井 泰雄


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