弁護人と被疑者・被告人とのオンライン接見の法制度化を求める会長声明
1 現在、法制審議会の刑事法(情報通信技術関係)部会(以下「法制審部会」という。)では、
被疑者・被告人との「ビデオリンク方式」(対面していない者との間で、映像と音声の送受信
により相手の状態を相互に認識しながら通話することができる方法)による接見(電子データ
化された書類の授受を含む。以下「オンライン接見」という。)を刑事訴訟法39条1項の接
見として位置付けることが検討されている。
2 憲法34条前段は、身体拘束された者の弁護人依頼権を定め、これを受けた刑事訴訟法39
条1項は、弁護人(弁護人となろうとする者を含む。以下同じ。)が被疑者・被告人と立会人
なく面会し、書類の授受をすることができるとする接見交通権を定めている。身体拘束を受け
ている被疑者・被告人にとって刑事収容施設において接見により弁護人から援助を受けること
は重要な権利である。特に、逮捕直後の初回の接見は、身体を拘束された被疑者にとって、適
切な助言を得るための最初の貴重な機会であって、憲法上の保障の出発点を成すものであり、
これを速やかに行うことが被疑者の防御の準備のために特に重要である。
3 しかし、実際には被疑者・被告人が収容されている刑事収容施設が遠隔地にあるといった地
理的な理由などで、初回接見が逮捕後速やかに行えない事態が生じている。
例えば、新潟県内では、佐渡島で複数の被疑者が逮捕される共犯事件が発生した場合、被疑
者ごとに別の弁護人を選任しようとすると、島内の弁護士だけでは足りず、新潟市内の弁護士
が国選弁護人に選任されることがある。この場合、接見にはジェットフォイルやフェリーを利
用して、数時間かけて赴かなければならず、速やかな初回接見は極めて困難である。冬期にあ
っては、フェリー等が欠航することも頻繁にあり、接見の実施までに数日を要する事態すら起
こりうる。また、新潟県は、日本有数の豪雪地帯であるところ、冬期の降積雪状況によっては、
道路が通行止めになるなど、速やかに刑事収容施設に赴くことができないこともある。
遠方であることにより生じる不利益は、初回接見に限らない。被告人が起訴後に遠隔地所在
の刑事収容施設に移送されることもあり、地理的な要因によって起訴後の接見実施に困難を伴
うこともある。その結果、公判前整理手続や公判手続の遅延を招いたり、公判に向けた被告人
の準備に支障が生じる事態も起こりうる。新潟地方裁判所管内では、裁判員裁判は新潟地方裁
判所本庁でのみ実施されているため、上越地域や中越地域で発生した裁判員裁判対象事件の被
告人は、起訴後、新潟市内の新潟拘置所に移送されることとなる。この場合に、各地域の弁護
人が接見に赴く時間的制約は大きく、そのことは、結果的に、被告人の防御権に重大な不利益
を与えることにもなりかねない。
このような不利益を被疑者・被告人に負わせないよう、遠方であっても適時適切な接見が実
施できる仕組みの構築が急務であって、オンライン接見を法制度化する必要性は極めて高い。
4 他方、法制審部会においては、オンライン接見について、実施設備に伴う人的・経済的コス
トの負担や、なりすまし等の危険がある等の問題も指摘されている。
しかし、新たな設備の整備等に伴い人的・経済的コストが増えるのは、令状手続のオンライ
ン化をはじめとする刑事手続のIT化全般に妥当することである。法制審部会では、検察官に
よる弁解録取や、裁判官による勾留質問をオンラインで行うことが具体的に検討されているが、
それらをオンラインで行うための新たな設備の整備がなされれば、弁護人とのオンライン接見
も十分可能となるはずである。また、アクセスポイント方式(弁護人が最寄りの警察署に赴き、
同署の設備を使用して、被疑者・被告人のいる刑事収容施設と連絡をとる方法。)を採用した
現行の電話連絡制度や電話による外部交通制度において、第三者が弁護人になりすましたり、
罪証隠滅を図ったという事例は報告されていない。なりすましや罪証隠滅という弊害を除去す
るための現実的な措置は、アクセスポイント方式を例として、十分存在しており、オンライン
接見の法制度化を否定する事情にはならない。
5 刑事手続のIT化の議論は、被疑者・被告人の人権保障を拡充するという観点も含めて進め
られるべきである。このことは接見の場面でも同様である。
当会は、当地の地理的特徴から生じる被疑者・被告人の不利益が一日も早く解消されるよう、
法制審議会において、オンライン接見の法制度化が実現されることを強く要望する。
2023年(令和5年)7月20日
新潟県県弁護士会
会長 福井 泰雄