001/202212/logo.png@alt

お知らせ

岡口基一裁判官に対する弾劾裁判についての会長声明

1 岡口裁判官の訴追
 裁判官訴追委員会は、2021年6月16日、岡口基一裁判官(仙台高等裁判所判事兼仙台簡易裁判所判事、以下「岡口裁判官」
といいます。)の罷免を求め、裁判官弾劾裁判所に訴追しました。
 裁判官訴追委員会は、岡口裁判官のSNSでの投稿や記者会見等における発言13件(以下「本件訴追対象行為」といいます。)
について、「裁判官としての威信を著しく失うべき非行」(裁判官弾劾法第2条第2号)にあたるとしています。

2 司法権の独立、裁判官の独立
 司法権の本質的役割は、法の支配を徹底し少数派の人権を保障する点にあります。この役割を果たせるようにするために、
司法権には高度の独立性が保障されています(憲法76条1項)。
 また、少数派の人権保障を実現するためには、司法権のみならず個々の裁判官についても独立性を保障することが不可欠です。
このため憲法は、裁判官の職権行使の独立を規定するとともに(憲法76条3項)、裁判官の身分保障についても特別の規定を
おいています(憲法78条前段)。

3 身分保障の例外としての裁判官弾劾制度
 他方で、いかなる場合にも裁判官の身分を失わせることができないとすると、裁判の公正さを担保することが困難となることも
想定されます。そこで、裁判官の身分保障の例外として、両議院の議員により組織される弾劾裁判所において法定の罷免事由が
あると判断された場合に訴追された裁判官を罷免することができる、裁判官弾劾制度が設けられています(憲法64条)。
 ただ、弾劾裁判により罷免された裁判官は、裁判官としての身分を失うだけではなく、法曹資格それ自体をも失うことと
なります(裁判官弾劾法37条、検察庁法20条2号、弁護士法7条2号)。このように重大な効果を生じさせることや、
司法権の独立や裁判官の独立の重要性からすれば、「職務の内外を問わず、裁判官としての威信を著しく失うべき非行があつたとき」
(裁判官弾劾法第2条第2号)とは、犯罪行為ないしそれに匹敵する重大な違法行為を行ったことが明らかな場合に限定して解釈
されるべきです。
 実際、これまでに裁判官弾劾法第2条第2号に該当するとして罷免された事例は、対象の裁判官が、収賄、公務員職権濫用、
児童買春、ストーカー行為、盗撮等の犯罪を行ったケースに限られています。

4 岡口裁判官に対する罷免について
 本件訴追対象行為には、その一部に不適切と評価されうる行為も含まれていますが、いずれも犯罪行為にはあたりませんし、
またそれに匹敵する重大な違法行為であるとも言えません。このような行為を理由に裁判官を罷免することを認めると、従来の
罷免判決の基準が大幅に引き下げられることとなります。
 こうした前例を認めると、訴追・罷免制度が濫用される危険を広げることとなりかねません。また、個々の裁判官の職務執行に
萎縮的な効果を及ぼし、少数派の人権を保障するという司法の本質的役割を十全に果たせなくなることも懸念されます。

5 よって、当会は、裁判官弾劾裁判所に対し、本件訴追対象行為がいずれも罷免事由に 該当しないことを明確に示すよう求めます。

                                        2022年(令和4年)2月8日
                                           新潟県弁護士会
                                           会長 若 槻  良 宏  


ページトップへ

page top