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お知らせ

精神障害を理由とする強制入院制度を改革し,共生社会の実現を求める会長声明

1 強制入院制度のもたらす人権侵害
 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(以下「精神保健福祉法」という。)は,精神障害のある人を対象とし,
期間制限のない強制入院制度を設けている。
 強制入院により,閉鎖病棟や隔離室の中に閉じこめられ,時には身体拘束により身動きすら取れない状態に置かれ,
屈辱感や自己喪失感とともに深刻なトラウマを植え付けられた患者は少なくない。数十年もの長期間にわたり社会から
隔絶され,精神科病院で一生を終える患者もいる。
 強制入院制度は,憲法第13条が保障する個人の尊厳を深く傷つけるとともに,地域で教育を受け,働き,家族を
持つなど,生活のありとあらゆる場面で,人生選択の機会と発展可能性・自己実現の可能性を大きく損なわせ,隔離
による人生被害を生じさせるなど,重大な人権侵害につながるものである。
 日本弁護士連合会第63回人権擁護大会第1分科会では,「精神障害のある人の尊厳の確立をめざして
~地域生活の実現と弁護士の役割~」をテーマにシンポジウムを開催し,入院経験者に対するアンケートを実施したが,
「入院によって人生が変わってしまった。」「人として扱われなかった。」など赤裸々な回答が多数寄せられ,入院
患者が様々な人権侵害を受けている実態が明らかにされた。
 また,医療従事者に広範な権限を付与する強制入院制度は,患者と医療従事者との間に閉鎖的で構造的な権力関係を
生み出し,医療従事者による劣悪な処遇や虐待等を生み出す温床ともなりかねない。新潟県内でも精神科病院内での
虐待事件が告発された歴史があるが,近年も,神戸市の精神科病院で凄惨な虐待事件等が発覚するなど,虐待等による
人権侵害が繰り返されている。

2 強制入院制度に関する国際的な動向と日本の精神科医療の特異性
 日本も批准する障害者の権利に関する条約第14条第1項は,「いかなる場合においても自由の剥奪が障害の存在に
よって正当化されないこと」と規定しており,国連障害者権利委員会による同条に関するガイドライン等においても,
強制入院制度が同条約の趣旨に反することが明らかにされている。
 EU諸国では,2018年時点の在院患者数に占める強制入院の割合は10%台となり,国際的には強制入院制度
廃止に向けた動きが一層強まっている。
 ところが,日本では,在院患者数に占める強制入院の割合は46.8%と著しく高く,国際的な動向から大きく
遅れている。
 そもそも,日本の精神科医療制度は,1960年以降,地域移行・脱施設化を進める世界の潮流に反して病床数を
増大させ,世界の精神病床の4分の1が日本にあるとも言われている。2016年の人口10万人あたりの精神病床は
263床で,OECD加盟国の平均である69床の4倍以上である。精神病床の平均在院日数も,2017年は
267.7日であり,OECD加盟国の平均36.7日の約7倍と突出して長く,また,同年統計では,日本の入院患者
27.8万人のうち,5年以上の長期入院が9.1万人(約33%),10年以上の長期入院が5.4万人(約19%)
となっている。この27.8万人のうち,「受け入れ条件が整えば退院可能」とされる「社会的入院」は5万人に上る。 
 このように日本は,精神病床数,精神科入院者数,入院期間の長さ,そして社会的入院の多さが世界で突出し,異常
ともいえる事態となっている。

3 目指すべき社会像と医療制度
 国は,地域共生社会の実現を掲げているところ,強制入院制度により精神障害のある人を排除して隔離する社会は,
共生社会とはいえない。
 近年,諸外国においては,対話を重視することにより入院を回避することは可能であるとの考えの下,ACT
(包括型地域生活支援サービス。多職種の専門家チームが,地域で暮らす精神障害者に支援を提供するサービス。),
オープンダイアローグ(急性期を含めた精神疾患の患者に対し,危機に即座に専門職や家族等の関係者が集まって,
本人と共に開かれた対話を繰り返して治療するフィンランドの試み。)等の実践により入院を回避するための取組が
なされ,日本においてもこれらの実践が試みられている。
 本来,医療は,本人のためのものである。一般医療と等しく,精神科医療におけるインフォームド・コンセントを
確立し,このような実践の普及等により,精神科医療へのアクセスを十分に確保し,精神障害のある人に対し,
患者の権利を中心とした医療法による最善の医療が提供されなければならない。

4 当会は,精神障害のある人の尊厳の確立をめざし,精神科病院に入院する人の権利保障,地域生活移行に向けた
支援に尽力することを決意するとともに,国に対し,精神保健福祉法の強制入院制度を廃止し,精神科医療をその他の
医療一般と共に医療法に等しく包括させるための法改正を行うこと,国と地方公共団体に対し,真の共生社会の実現に
向けて,精神障害のある人が,地域において,その尊厳を保ちながら安心して生活することができるよう,地域資源の
創出等の必要かつ実効的な施策やそれにあたり必要な予算措置を講じることを求める。

                                        2021年(令和3年)12月20日
                                           新潟県弁護士会
                                           会長 若 槻  良 宏  


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