高度プロフェッショナル制度の創設に反対しより厳格な時間外労働の上限規制を求める会長声明
政府は、2018年(平成30年)4月6日、衆議院に、働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する
法律案(以下、「法律案」という)を提出した。同法律案には、特定高度業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)の
創設及び時間外労働の上限規制などの労働基準法の一部改正が含まれている。
高度プロフェッショナル制度は、その対象となる労働者(以下「対象労働者」という。)について、労働時間管理の対象から外し、
労働基準法による労働時間規制の適用除外とするものということができる。
この制度の前提には、対象労働者が労働時間管理と労働内容を自律的に決定できる労働環境が必要である。しかし、現下の
労働環境から見て、対象労働者が、年収が高く、高度の専門的知識、技術、又は経験を要する業務に従事しているからといって、
使用者の指示に従わずに自律的な労働時間や労働内容の管理ができるとは限らないし、この制度が労働時間規制の例外であるにも拘らず、
今後の省令改正による対象労働者の拡大に対する法的な歯止めがない点も大きな問題であるといえる。
また、一定の制約はあるものの、使用者が対象労働者に対して、いわゆる過労死ラインを大きく超えた長時間労働や深夜労働をさせても
違法とする規定は見当たらないことは問題であろう。
これでは、長時間労働、深夜労働が蔓延する可能性を否定できず、その結果、多数の過労死が生ずる危険性があるといわざるを得ない。
時間外労働の上限規制を含む改正自体は、時間外労働の限度に関する基準(平成10年労働告示154号)を法律化するものであり、
長時間労働に法的な歯止めをかける意味で有意義といえる。
しかし、その内容では、以下の諸点において労働者の健康を確保するための基準としては不十分というべきであり、時間外労働の
上限規制についてさらに厳しい基準の導入が求められるというべきである。
1 月45時間の規制に休日労働時間は含まれないため、通常就業時でも月約80時間の時間外・休日労働をさせることができること
2 臨時就業の必要性があれば月100時間近くの時間外労働・休日労働をさせることができること
3 医師、建設労働者、運輸労働者などが適用除外されていること
これらは、過労死ラインを超える労働を適法化させるものであって、「労働条件は労働者が人たるに値する生活を営むための必要を
充たすべきものでなければならない」という労働基準法第1条の精神を実現しているとはいえず、過労死の防止には程遠いというべきである。
当会は、以上指摘した点について反対を表明するとともに、政府において、過労死等防止対策推進法の理念にもとづいて適正な労働条件を
確保し、過労死など労働者が健康を害する事態が発生しないようにするための実効的規制を実現することを強く要望する。
2018年(平成30年)4月24日
新潟県弁護士会
会長 小 泉 一 樹