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お知らせ

いわゆる共謀罪の創設を含む組織的犯罪処罰法改正案に反対する会長声明

 政府は、本年3月21日、いわゆる共謀罪の創設を含む組織的犯罪処罰法改正案(以下「本法案」という。)を通常国会に
提出し、5月23日、本法案は衆議院本会議で可決されました。
 しかし、本法案には以下のとおり重大な問題があります。

第一に、処罰範囲が不当に広がる危険があることです。
 本法案における共謀罪は、「テロリズム集団その他の組織的犯罪集団」の活動として、一定の犯罪に当たる行為の遂行を
「二人以上で計画した者」は、その計画に基づく「準備行為」が行われたときに処罰される、というものです(本法案6条の2)。
 わが国の刑法は既遂処罰を原則としています。例外的に未遂や予備を処罰する場合は、犯罪の実行行為への着手や、
それ自体に危険性のある予備行為を必要としています。
 これに対し、本法案における「準備行為」は、資金又は物品の手配、関係場所の下見「その他の」「準備行為」とされており、
何らの限定もありません。これは、処罰の対象行為を法律で明確に定めることで、国民にそれ以外の行動をする自由を保障する
罪刑法定主義(憲法31条)に反します。また、日常的な行為との区別もつかず、それ自体に危険性もない「準備行為」が
行われたとして処罰することは、内心で「計画」したことをもって処罰することにつながりかねず、思想良心の自由を保障した
憲法19条に反する疑いがあります。
 「組織的犯罪集団」、「計画」にも法文上に十分な限定はありません。政府も、元々は正当な活動をしていた市民団体も
性質が一変すれば「組織的犯罪集団」に当たりうる、「計画」は電話、メール、SNSなどでも成立しうると説明し、一般市民も
共謀罪による処罰の対象になりえます。
 本法案の共謀罪の対象犯罪数も277と膨大です。重大犯罪に限られているわけでもありません。
 このように本法案は、処罰範囲が不明確であることから、これが成立すれば、国民が捜査や処罰の対象になることを恐れて、
本来は適法であるはずの行動をためらうことも予想され、集会、結社、言論その他表現の自由(憲法21条)などの人権保障に
萎縮効果を及ぼしかねません。

第二に、捜査機関による恣意的な解釈・運用の危険、監視社会化の懸念があることです。
 捜査機関が本法案の共謀罪を摘発するためには、まずは捜査機関が「組織的犯罪集団」と認めた団体や構成員を捜査の対象とし、
「計画」や「準備行為」を把握するために、電話やメール、SNSでのやりとりなどを日常的に監視する手段として通信傍受や
司法取引を利用するおそれがあり、監視社会化が進む懸念があります。
 「組織的犯罪集団」、「計画」、「準備行為」について法文上十分な限定がないため、捜査機関の恣意的な解釈・運用により、
一般市民が不当に捜査の対象とされてしまうことがありえます。 

第三に、テロ対策のための法案であるとの政府の説明に多大な疑問があることです。
 そもそも本法案に「テロリズム」の定義はありません。277の対象犯罪にはテロとは一見して無関係な犯罪も数多く含まれています。
 政府が批准するために本法案の成立が必要だと説明している国際組織犯罪防止条約(TOC条約、パレルモ条約とも称されます。)は、
国際マフィアの資金洗浄対策の条約であり、テロ対策の条約ではありません。また、共謀罪を創設しなくても、現行の国内法の
基本原則に従いつつ同条約を批准することは可能です。
 わが国は、既に、テロ対策については、関連の主要な13の国際条約を批准し、それに対応する国内法の整備も行っています。
 したがって、テロ対策のために新たに本法案が必要とは考えられず、政府の説明には多大な疑問があります。
 このように重大な問題があるにもかかわらず、政府は本法案の今通常国会中の成立を目指すとしています。
 当会は、本年3月15日付をもって「『テロ等準備罪』法案の国会提出に反対する会長声明」を発したところですが、
慎重審議を求める多くの国民の声に反し衆議院での採決が強行されたことに抗議し、改めて本法案の成立に反対する旨を表明いたします。

                                        2017年(平成29年)5月30日
                                           新潟県弁護士会
                                           会長 兒 玉 武 雄  


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