「テロ等準備罪」法案の国会提出に反対する会長声明
当会は,政府が,本年3月中に国会に提出すると報じられている「テロ等準備罪」を新設する組織犯罪処罰法等の改正案
(以下「本法案」といいます。)について,以下の理由から,強く反対します。
1 処罰範囲が不当に広がる危険があること
⑴ 政府は,テロ等準備罪の対象を,「組織的犯罪集団」による犯罪の「計画」と「準備行為」を要件として処罰範囲を限定すると
説明しています。
しかし,政府は,正当な目的で活動していた集団が犯罪目的に変われば,その段階から「組織的犯罪集団」として処罰対象に
なりうると答弁していますので,それまで合法的であった一般市民団体の活動が,突然,処罰対象となる可能性があります。
そして,外見上,日常生活上の活動と区別のつかない「準備行為」を対象としており,これに内心的な「計画」を加えても,
どれだけ対象行為を限定することが可能となるか疑問です。
また,「組織的犯罪集団」「計画」「準備行為」の内容は限定されていませんので,その判断は,捜査機関の恣意的な
解釈・運用に委ねられることになってしまい濫用的運用となるおそれもあります。
⑵ 処罰範囲が拡大するという批判に対し,政府は,テロ等準備罪の対象犯罪を677から277に減らすと報じられましたが,
それでも膨大な数の犯罪が新設されることに変わりはなく,また,上記の根本的な問題点が解消されるものでもありません。
2 国民が監視等される危険が大きいこと
テロ等準備罪が新設されれば,捜査機関は,同罪を摘発するため,犯罪の「計画」や「準備行為」を把握するべく,多くの団体
及びその構成員を日常的に監視する手段として,通信傍受や司法取引を利用することが予想されます。そのため,テロ等準備罪の
新設により,捜査機関から監視され,ひいては国民どうしが密告し合う社会につながりかねないという懸念があります。
3 テロ等準備罪がなくてもテロ対策や条約締結が可能であること
⑴ 政府は,テロ対策や国際組織犯罪防止条約(以下「本条約」といいます。)の締結のために,本法案の成立が必要であると
説明しています。
しかし,わが国の刑事法制は,予備・陰謀を含む多くの犯罪が広く法定され,これらによる処罰が可能です。これら既存の
国内法の適用及び本条約の一部留保により,テロ対策や本条約締結は可能であり,テロ等準備罪をあえて新設する必要が分かりません。
⑵ なお,国家間の情報提供については,個別に検討し外交交渉により実現すべきことで,一般的なテロ等準備罪の
新設の必要性とは別問題です。
4 テロ行為等から国民の生命や財産を守るべきことは当然のことですが,以上の理由により,当会は,現在検討されている
「テロ等準備罪」の新設を内容とする本法案には慎重であるべきとの立場から,国会提出には強く反対するものです。
2017年(平成29年)3月15日
新潟県弁護士会
会長 菊 池 弘 之