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お知らせ

JASRACによる音楽教室への著作権料徴収に関する会長談話

 報道によれば,一般社団法人日本音楽著作権協会(JASRAC。以下「ジャスラック」といいます。)は,本年2月2日,音楽教室での
指導者や生徒の演奏について「公衆の前での演奏」とみなし,来年1月から年間受講料収入の2・5%の著作権料を徴収する方針(以下
「本件方針」といいます。)を明らかにしたとのことです。しかし,本件方針には,次のとおり大きな問題が存在します。

1 本件方針は,著作権法の演奏権(「著作者は,その著作物を,公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として上映し,又は演奏する
 権利を専有する。」第22条)を根拠に,音楽教室での生徒に対する演奏は,この規定の「公衆に直接…聞かせることを目的として」
 演奏するものに該当することを理由とするものと思われます。
  確かに,著作権法上の「公衆」が「特定かつ多数の者を含む」ものであり(第2条第5項),音楽教室の指導等には営利性(第38条)
 もあるでしょう。
  しかし,音楽教室での楽曲使用は,生徒に鑑賞目的で「聞かせる」ために使用されるものではなく,主に「演奏技術の習得」目的のために
 使用されるものであり,「目的」が明らかに異なっています。
2 次に,ジャスラックは,著作者との間で締結する信託契約により,原則的に著作者の有する著作権等を信託財産として移転され,
 これを管理する権利を有しています。
  しかし,実際に作曲し又は作詞をした著作者の中には,上記ジャスラックの徴収について疑問や反対している人もいます。そして,
 現在の契約関係や徴収方法を考えると,反対する著作者の意思によって特定の楽曲を音楽教室での徴収から除外することは困難と思われ
 ますので,ジャスラックは,まずは,著作者の意思が反映される契約関係及びデータベースの構築等の検討をすべきです。
3 そして,徴収方法も問題です。上記は,年間受講料収入の2・5%を徴収するということですが,これはいわゆる包括徴収方法です。
 包括徴収方法(事業収入の一定割合を支払えば,データベース上で300万件を超える管理楽曲を自由に使える方法で,使用料の計算に
 おいて利用割合を反映しない方式)については,平成27年4月28日の最高裁判決により独禁法違反ではないとした公正取引委員会の
 審決を取消す判決を言い渡しており,実質的には排除型私的独占に該当するものです(但し,この判断が確定しているわけではありません)。
  ジャスラックは,上記訴訟の経緯から従前の包括契約の内容を修正しておりますが,本件方針がどのような包括徴収方法を予定しているか
 明らかでなく,その内容によっては,上記最高裁判例や独占禁止法の趣旨に反する可能性もあります。
4 また,ジャスラックは,全国の音楽教室のうち,約9千か所を徴収対象とし,個人運営の教室は当面除外する方針とも報道されておりますが,
 これはかような不公平・不平等な運用でしか徴収を実施できないことを認めているものであり,本件方針に無理があることを認めているものです。
5 ジャスラックにおかれては,非常に強力な権利である著作権制度の問題点を十分に認識しつつ,著作権法の「文化の発展に寄与する」という
 目的に十分に配慮すべきです。
  本件方針は,先人たちが「無償」で著作物を利用・活用できたことによって新たな楽曲等を制作し,生徒やリスナーの購入意欲等を高め,
 音楽文化を発展させてきた歴史や経緯に反するものであるとともに,日本の将来の音楽及び新たな著作物の制作・発展を阻害する危険を
 秘めているものであることを認識され,バランスのとれた制度構築をされるよう希望するものです。

 以上,本件方針には大きな問題がありますので,ジャスラックにおかれては本件方針を撤回しバランスのとれた制度を検討されるよう
求めるとともに,文化庁におかれては本件方針につき,日本の将来の文化的発展への阻害等につき重大な危機感を持って慎重に対応されるよう
求めるものです。

                                        2017年(平成29年)2月6日
                                           新潟県弁護士会
                                           会長 菊 池 弘 之  


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