労働者派遣法の一部改正案に反対する会長声明
第1 声明の趣旨
当会は、政府が今国会に提出をした「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律等の一部を改正する
法律案」(以下「本法案」という)に反対するとともに、同法の規定について適正な労働条件を確保するための改正を検討することを求める。
第2 声明の理由
1 直接雇用が原則であり派遣は例外である
使用者は労働力を必要とするときはみずから労働者を雇用することが原則である。直接雇用の原則は、誰が使用者として責任を負うのかを明確にし、
中間搾取を防止するなど、労働者の権利を守るため極めて重要である。
1985年(昭和60年)に制定された労働者派遣法も、高度に専門的な業務や臨時的な業務に限って労働者派遣を認めたものであった。
しかし、その後数度の改正により労働者派遣の条件が緩められ、派遣労働者が増加した。総務省統計局の労働力調査(基本集計) 2015年
(平成27年)2月分 (同年3月27日公表)によると、非正規の職員・従業員は1974万人であり雇用者全体の37%以上に達し、そのうち
労働者派遣事業所の派遣社員は122万人に上っている。
今回の「改正」は、このような一連の流れのなかで、企業がすべての業務について派遣労働者をいつまでも使い続けることができるようにするもの
であり、原則と例外を逆転させるものである。
2 本法案には極めて重大な問題点がある
本法案の最大の問題点は、派遣元で有期雇用されているすべての派遣労働者について、派遣期間の制限を従前の業務単位ではなく個人単位とし、
各個人について同一の事業所において派遣の上限期間を3年とする、ことである。
この「改正」により、派遣先の業務について、3年が経つごとに派遣労働者を入れ替えれば、派遣労働者を使いつづけることができるようになる。
そうなると、派遣労働者は、3年ごとに職場を変わらなければならなくなる。また、正規従業員の退職や配置転換、従業員の新規採用などに際し、
正規従業員を派遣労働者に置き換え、その後同様に労働者の入れ替えが繰り返されるおそれがある。その結果現在以上に大量の派遣労働者が
生み出されるおそれがある。
派遣労働者は、正規従業員と比べ、一般に収入が少なく、また、派遣先の都合で簡単に失職するという極めて不安定な状態に置かれている。
今回の「改正」は、現在の格差をさらに広げ、家庭をもち子育てをすることさえできない若者をふやすことにもなる。そうなると、内需拡大による
景気の回復にも逆行し、社会の安定をも害する。
一方、使用者からみても、3年ごとに入れ替わる派遣労働者が従業員の大半を占めるとなると、職場で責任のある地位を担う人がいなくなるおそれが
ある。また、長年同一の職場に勤務することによる知識、経験のつみかさねができず、人が替わることにより職場内外の連携・協力関係が断絶し、
または、つくりづらくなる。このように、今回の「改正」は、使用者の経営にとっても大きな悪影響を与えかねない。
3 直接雇用を原則、派遣を例外とする具体的措置を求める
雇用は、労働者の雇用の安定と労働条件を確保するため、使用者の責任を明確にした「直接雇用」が基本であり、派遣労働はあくまで
臨時的・一時的なものと明確に位置づけられるべきである。
派遣労働を適正なものとするためには、派遣の対象となる職種、派遣期間を限定するなど、労働契約において具体的な効力を有する規定こそが必要である。
4 結論
よって、当会は、今国会に提出された労働者派遣法改正案に対し改めて反対し、派遣労働者について適正な労働条件を確保するための改正を
検討することを求める。
2015年(平成27年)5月11日
新潟県弁護士会
会長 平 哲 也