災害対策と「国家緊急権」に関する会長声明
第1 声明の趣旨
災害対策を理由にした「国家緊急権」は不要です。
第2 声明の理由
1 「国家緊急権」をご存じですか?
現在、憲法改正による国家緊急権の導入が、超党派で議論されています。
「国家緊急権」とは、戦争、内乱、大規模自然災害などの非常事態の際に、通常の憲法秩序を変更し、政府が「緊急事態宣言」をすることで、
政府に権力を集中させて、その行使を可能にすることを意味します。
具体的には、政府が緊急事態を宣言した後、政府が法律と同じ効力の政令を定めることができるといった条文を、憲法に設けることが
考えられています。これによれば、国会で議論することなく、政府の意思決定のみで、市民の権利を制限し、義務を課すことが可能になります。
今、東日本大震災を契機に、「災害対策」に必要だからという名目で、憲法にこのような「国家緊急権」を加えることが検討されています。
2 本当に災害対策のために「国家緊急権」は必要なのでしょうか。今の法制度では不十分なのでしょうか。
新潟県弁護士会は、新潟県中越地震、新潟県中越沖地震における復興支援活動に、また、東日本大震災の被災者の皆さんへの支援活動に携わってきました。
その活動の経験から、「準備していないことはできない」、被災して不自由な生活を強いられる人達にこそ、人権が守られる必要があることを学びました。
災害対策として必要なのは、「事前の準備」と「市民に寄り添い、その人権を守ること」だと考えます。市民の権利を制限し、義務を課すことではありません。
これまでの大規模災害の際に、政府の対応が不十分であった例があるとすれば、それは事前の準備が不十分であったか、災害時に活用すべき法律を
十分に活用できなかったか、あるいは、被災した人達の人権を守る意識に欠けていたことが原因ではないでしょうか。
今の法制度でも、内閣総理大臣は、必要な指示をすることができ、災害救助のために防衛大臣は自衛隊を派遣できます。都道府県知事や市町村長も、
市民の皆様に対して必要な措置を講じることができます。これらの法制度を十分活かすことこそ重要であり、現に、新潟県内の各自治体においても、準備や訓練が
進められているところです。
3 「国家緊急権」によって政府に権力が集中したらどうなるでしょうか。
憲法は、市民の自由を守るため、政府を含む権力に対し、人権を保障すべき義務を課し、権力を抑制する法です。我々市民に義務を課す法では
ありません(このような考え方を「立憲主義」といいます)。
大規模災害など、市民の自由が危ない状態にあるときこそ、最大限、人権を保障しなければなりません。まさに憲法の出番です。
「国家緊急権」が導入され、たとえ一時的でも、本来的な憲法の機能を停止し、権力への抑制が不十分となってしまえば、かえって、我々市民の自由が
侵されかねません。これは非常に危険です。
4 このような「国家緊急権」の危険性、及び、災害対策は、事前の準備こそ重要であることから、新潟県弁護士会は、災害対策を理由にした「国家緊急権」は
不要であると考えます。
2015年(平成27年)5月1日
新潟県弁護士会
会長 平 哲 也