原発事故被害者の立場にたって原子力損害賠償紛争解決センター和解仲介業務 規程の改正又は適切な運用を求める意見書
原子力損害賠償紛争解決センター総括委員会は,2011年(平成23年)8月26日,福島第一原発及び第二原発の事故被害を受けて,
その和解仲介業務を行うために原子力損害賠償紛争解決センター和解仲介業務規程を決定した。
同規程は,基本的には民事訴訟法の規定に準拠していると思われる。しかし,福島原発事故被害者である当事者本人による申立ても想定
されているにも関わらずその申立人に過重な負担を課している。また,被害者である申立人の権利利益を十分に保障した内容とは考えられない
規定が存在している。
そこで,以下のとおり,改正又は適切な運用を求める。
1 副本の作成,直送(規程10条2項,23条4項,6項)
同規程では,被害者である申立人に対し,各種書類の副本の提出,直送を求めている。
しかし,副本はセンターで作成し,書類の送付もセンターがすればよいのであり,避難生活を余儀なくされている被害者たる申立人に副本の
作成及びその直送等を強いるべきではない。
よって,申立人に対し,各種書類の副本提出,直送を求めている部分については削除すべきか,少なくとも運用において申立人の負担を
軽減すべきである。
2 補正について(規程12条1項)
同規程12条1項では,「申立てが前2条の規定に適合しないと認められるときは,当該申立てを却下する。ただし,その不備を補正
することができると認められるときは,相当の期間を定めて,申立人に補正を求めることができる」とされている。すなわち,原則として規定に
不適合な申立書については却下することとし,補充的に補正を求めることができるとされているのである。
代理人を付さずに申し立てる被害者はそもそもかかる手続に習熟しているわけではなく,不備が発生することは当然に想定すべきである。
そのような場合には,センター職員が,その職責として,不備の補正のために必要な情報を提供すべき義務を負うことを規定すべきである
(少なくとも,運用において申立の却下が回避されるように努力すべきである)。
この点,情報公開法4条2項が,不備のある開示請求がなされた場合に,「行政機関の長は,開示請求者に対し,補正の参考となる情報を
提供するよう努めなければならない」としていることが参考になる。
3 主張等の提出(規程23条2項,3項)
同規程23条では,2項「当事者は,早期に紛争の問題点に関する主張及び証拠を提出しなければならない」,3項「仲介委員は,当事者に対し,
主張の整理補充,又は証拠書類その他必要な書類の提出を求めることができる」としている。
この点,少なくとも申立てをした被害者に関しては,かかる手続に習熟していないため,書面の準備のために時間を要することもあろう。また,
仲介委員から書面等の提出を求められても,仲介委員の説明が不十分であれば,どのような書面等を提出したらよいのか迷うことも考え得る。
よって,申立てをした被害者については拙速に書面等の提出を迫ることがないようにすべき旨,書類の提出を求める際には参考となる情報に
ついて懇切丁寧に説明すべき旨を規定するか,運用において申立人の負担を軽減すべきである。
4 口頭審理期日について(規程24条1項,2項,3項)
⑴ 口頭審理期日の開催について
同規程24条1項では,仲介委員が必要と認めた場合には口頭審理期日を開くものとしている。
しかし,申立てをした被害者において書面では十分にその意を尽くせず口頭による審理を求めるのであれば,かかる要求は最大限尊重されるべき
である。よって,申立てをした被害者の要求があった場合には原則として口頭審理期日を開催すべきである。
⑵ 口頭審理期日の開催場所について
同規程24条2項では,口頭審理期日は原則として東京事務所又は福島事務所で開催することとし,仲介委員が適当と認めるときには適宜の
場所において開催することができると定める。
しかし,不本意に事故前の住所からやむなく追い立てられ,避難生活を送っている申立被害者に対し,遠方の事務所に来るよう要求することは
過酷と言える。
よって,原則として申立てをした被害者の希望する都道府県で口頭審理期日を開催できるよう極力便宜を図るべきである。
⑶ 音声の送受信で同時に通話をする方法について
同規程24条3項では,音声の送受信で同時に通話をする方法による口頭審理期日については,両当事者の同意が前提条件だとする。
しかし,東京電力の同意がなければ音声の送受信で同時に通話をする方法による口頭審理期日を行い得ないとすべき合理的理由はない。東京電力の
同意は不要とすべきである。
2011年(平成23年)9月13日
新潟県弁護士会
会長 砂 田 徹 也