布川事件再審無罪判決についての会長声明
1 昨日,水戸地方裁判所土浦支部は,いわゆる布川事件について,櫻井昌司氏及び杉山卓男氏に対し,再審無罪判決を言い渡した。
両氏は,1967年(昭和42年)に発生した強盗殺人事件について,事件発生後間もなく別件逮捕され,代用監獄で留置されている間に
自白させられたが,第一審から一貫して無罪を主張してきた。
1978年(昭和53年)に,両氏について無期懲役刑が確定したが,その後も両氏は無罪を訴え続け,1983年(昭和58年)に再審請求を
行ったものの,1992年(平成4年)最高裁はこれを棄却した。
2001年(平成13年),両氏は第二次再審請求を行い,最高裁が検察の特別抗告を棄却し再審開始が決定されたのは2009年
(平成21年)であった。
そして,ようやく昨日の再審無罪判決に至ったものである。両氏の無実は証明されたが,この日を迎えるまでに44年もの期間を要した。
この間両氏が29年もの間身柄を拘束され,自由を奪われ続けてきた事実を消し去ることはできない。その事実の重さを思えば,二度とこのような
冤罪事件を発生させてはならない。
2 そもそも本件は,両氏と犯行を結びつける客観的証拠が乏しく,有罪立証のほとんどを両氏の自白に依存していた。その両氏の自白は,
代用監獄で留置されている間にさせられたものであり,また,捜査段階では否認と自白が繰り返されていたほか,自白の内容自体が,犯行状況,
物色行為,隠滅工作等,犯行の重要な部分で変遷していたものであった。
昨日の判決は,このような問題点を指摘し,両氏の自白調書は,取調官の誘導等により作成されたものである可能性を否定することはできないなど
として,両氏の捜査段階における自白に信用性を肯定することはできず,さらには,その任意性についても相応の疑いを払拭することができないと判断した。
当会は,長期間一貫して無実を訴え続けてきた両氏並びにその支援者及び弁護団に対し最大限の敬意を表するとともに,検察官がこの判決を
真摯に受け止め,控訴しないよう強く求める。
3(1) 本件では,捜査段階で両氏が自白から否認に転じると両氏を拘置所から再び代用監獄に送り,その間に両氏は再び自白をさせられた。
このことは,代用監獄が虚偽自白の誘導,強要の温床となることを示している。
(2) また,本件では確定審において,取調べ過程で自白を録音したテープが証拠とされたが,当該録音テープは取調べの全過程を録音したものではなかった。
それにもかかわらず,確定審は,当該録音テープを自白の任意性を認める証拠と評価し,有罪認定の証拠としていた。
このことは,取調べの過程において自白している部分だけの一部の録音がされたのみでは不十分であるのみならず,一部の録音だけでは虚偽の自白で
あってもあたかも任意に自白をしてるかのごとき印象を与えかえって危険であり,取調べの全過程を録音,録画しなければ自白の任意性の判断が適切に
できないということを表している。
(3) さらに,本件では,無罪判断のための重要な証拠(目撃者の供述調書,毛髪の鑑定書等)が検察官から開示されたのが,第二次再審になってからであった。
このことは,検察官手持ち証拠がはじめから全面的に開示されなければ,冤罪が起き得るということを如実に表している。
4 当会は,2008年(平成20年)以降3度の総会決議により取調べの全過程の録音,録画(全面可視化)の実現の必要性があることを繰り返し訴えてきた。
また,2008年(平成20年)7月16日に「布川事件についての会長談話」を発表し,代用監獄制度の廃止,取調べの全過程における録音,録画,
全証拠の開示などを強く求めてきた。
昨日の再審無罪判決を受け,冤罪を防止する観点から,関係機関に対し,改めて上記問題の改善を強く求めるものであり,また,当会は,その実現のため
今後も全力を尽くすことをここに表明する。
2011年(平成23年)5月25日
新潟県弁護士会
会長 砂 田 徹 也